キラリと光る町
飯南町・智頭町

島根県の飯南町、鳥取県の智頭町が手を結び、「山陰癒しの森事業共同体」としてスタートした森林セラピーの共同プロジェクト。そのリーダーであり、自身も森林セラピストである長谷川浩司さんに、プロジェクトについて、森林セラピーの魅力について、お聞きしました。

長谷川浩司さん
智頭町観光協会 事業部長
森林セラピー®基地マネージャー
森林セラピスト®

1962年鳥取市生まれ。自然体験をすることで豊かな心と体を育む事を目的に、2000年に鳥取県自然体験ファーム(現・鳥取県自然体験塾)設立。浦富海岸シーカヤックツーリングなどの事業を立ち上げる。2009年、智頭町が森林セラピー事業を始めるに際し、智頭町森林セラピー基地マネージャーに就任し、人材育成、プログラム開発などに取り組む。

長谷川浩司さん

普段は冗談の多い長谷川氏。森林セラピストとしてはモードが切り替わる。

日本発の森林セラピー®
心身への癒し効果に注目

—森の魅力はどんなところでしょうか。

長谷川さん:一般に、森に来ると癒されると言いますが、都会の人は森との接し方を知らないでしょう。これを知らないと癒しにならないんですよ。森にふだん接点のない人が、知らない森にふらりと来ても怖くないですか?

—怖いです(笑)。

長谷川さん:だから、まずは接し方をガイドして差し上げるんです。よく、森では宇宙を感じると言われますが、何百年もの時が流れている場所だからでしょうね。そういう場所で自分を解放してあげると、人生を落ち着いて顧みることができる。

—「森林セラピー」は、名前からして欧米から輸入されたものなのかと思っていましたが違うんですね。

長谷川さん:そうなんですよ。ドイツでは、クアオルトと呼ばれる滞在型の保養地で、自然の温泉や水に浸かったり、森を歩いたりする治療プログラムを提供していて、保険も適用になることから、広く利用されています。そういうイメージは原点にありますね。ただ、私たちが森林セラピーで同じものをめざしているかというと少し違います。日本の森は、その多様さに世界にも類を見ない独特なものがあるのと、このような目的で歩くための適性が高いので、将来的にはむしろ海外からも森林セラピーを体験しに来てもらいたいですし、可能性は十分にあると思っています。

—なるほど。でも、独自につくってゆくのは、それはそれで大変なことですね。

長谷川さん:森林セラピーはいわば黎明期。全国には森林セラピー基地が57カ所あって、ガイドの案内による森歩きをすることは共通しているのですが、それ以上の部分にはばらつきがあります。私たちの考える森林セラピーは、単なるトレッキングや自然観察会ではありません。智頭町では、千葉大学と共同研究して、効果の裏づけをとるなどし、予防医学として、心身の癒しにアプローチすることをめざしてきました。一定の成果が出ていますが、まだまだこれからですね。

森林セラピー

森林セラピーでは、五感をフルに使う。

森林セラピー

深呼吸して目を閉じ、耳や頬で森を通り抜ける空気を感じる。

森林セラピー

ゆっくりと歩き進むと、少しずつ森と一体になる感覚が得られる。

両町の連携により、魅力を補完し合う

—飯南町と智頭町よる「山陰癒しの森事業共同体」。県も異なるふたつの町が森林セラピーで連携したのにはどんな理由があるのでしょう。

長谷川さん:まずひとつは、「島根(飯南町)の森」「鳥取(智頭町)の森」と謳っても、都会の人にはピンとこないだろうというのがありました(笑)。広域で連携して、「山陰の森」と言った方がいいと思ったんです。ふたつめには、どちらの提供しているプログラムも、内容的に質が高く、感覚を共有できたこと。さらには、お互いを補完し合い、すみわけができる関係であったことです。

—なるほど。お互いを補完し合い、すみわけができるというのは具体的に?

長谷川さん:飯南町のコースは、より初心者にやさしいですし、最大の優位性は「森のホテルもりのす」があること。喧噪を離れて非日常を過ごすのに、あの立地は素晴らしいと思います。対して智頭町は、深い森を体感でき、宿泊は民泊が盛んなので、田舎の暮らしを味わってもらうこともできて、二度おいしいというか。ニーズによって選んでもらえればと。

—立地も違いますもんね

長谷川さん:そうですね。飯南町は出雲空港から1時間半、智頭町のほうは鳥取空港から40分、大阪からは車でも列車でも2時間です。飯南町は出雲大社、智頭町は鳥取砂丘と、有名な観光地にも遠くない場所にあるので、是非セットにして訪れてもらいたいです。

森林セラピー

ヨガマットを持参して、森の中でしばし身を横たえることも。

森のホテル「もりのす」

飯南町の森林セラピーの拠点となる、森のホテル「もりのす」。

「山陰癒しの森」プロジェクト主要メンバー

「山陰癒しの森」プロジェクトの、飯南、智頭両町の主要メンバー。

編集後記

両町で、森林セラピーを体験させてもらいました。ガイドさんの案内で歩くことで、なかなか気づけないような森の表情、機微を感じることができて、自分が森の一部になってゆくような体験ができたのは素晴らしかったです。ヨガマットを敷き、大きな木の下に寝転がり見上げた空、感じた風はとても印象的でした。「森」とか「木」で一括りしていたそれが、もっとうんと多様で、豊かなんだと、理屈ではなく感じられました。
飯南町の山碕町長は、「飯南町の町民はおっとりした穏やかな気質の人が多い」とおっしゃっていたのですが、町長さんがまさにその見本のような、癒しの町にふさわしい印象でした。智頭町の寺谷町長は、評判通りの魅力的な方。ご自身の若い頃のこと、奥さまのこと、トークは止まらず、こちらは笑ったり、感心したり忙しい(笑)。県を越えて、個性の異なる、実は距離も離れたふたつの町が森でつながる。「山陰癒しの森事業」、素敵な取り組みだなぁと思いました。日本で最も人口の少ないふたつの県には、だからこそなのかもしれません、日本の原風景が残っています。「見たかった田舎の風景ってこういうのだ」と、何度もこころを掴まれました。(2014年9月取材)

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