キラリと光る町
鶴居村

北海道阿寒郡鶴居村

鶴居村の所在地

道東に広がる日本最大の湿原・釧路湿原の一角に位置する鶴居村。約2,500人の村は、酪農を基幹産業とし、良質な牛乳が自慢です。地元の工房で生産されるチーズは、国内のコンテストで連続受賞する実力派。その名の示す通り、ツルのいる村として知られ、幹線道路越しにも、タンチョウの姿をたびたび見ることができます。タンチョウ目当ての観光客が国内外から訪れる鶴居村は、加えて、知る人ぞ知るキャンパーの聖地という一面も。
キラリと光るまち第7回は、鶴居村の大石正行村長にお話をお聞きしました。

鶴居村公式サイト

ツルと共に暮らす人々

大石村長

—ツルがいるから鶴居村。なんとも素晴らしい村名です。

大石村長:村名の候補は3つあったんですよ。「鶴居村」「鶴舞村」「三川村」。昭和12年に、話し合いの結果、鶴居村となった経緯があります。

—せっかく鶴で知られているので、「三川村」にならなくて良かったですね(笑)。

大石村長:まったくです(笑)。「三川村」は、三本の川が流れているからという理由だったのですが、全国あちこちにあった地名のはずなので、先人が賢明な選択をしてくれてありがたかったです。

—それにしても、その頃からツルは愛されていたのですね。

大石村長:そうですね。江戸時代では関東地方でも見られたそうですが、乱獲や環境の変化で絶滅の危機に瀕しました。昭和になって天然記念物ののち特別天然記念物に指定され、保護対象になって、鶴居村では、個人的にツルに給餌する人が現れました。50年ほど前のことです。鶴居村は、いまも昔も酪農王国。牛の飼料にするために育てているデントコーン(飼料用のとうもろこし)の種や芽が食害に遭うことも珍しくなく、その意味では酪農家の敵でもあるツルを、酪農家自身が保護したんですね。

—極寒の、吹雪の日も欠かさず給餌するエピソードを見聞きしたことがあります。

大石村長:タンチョウが渡り鳥だと思っている人も多いようですが、一年中ここにいますからね。そうした地元の個人の長年の地道な行いなくしては、絶滅寸前だったタンチョウが現在のように1,000羽ほどにまでなることはなかったと、専門家も見ています。

放牧の様子

放牧の様子。酪農のつくり出す風景は、えんえんと続く牧草地の緑が美しい。

知る人ぞ知る、キャンパーの聖地!

—そのタンチョウを見に訪れる観光客は国内外から絶えないですね。

大石村長:はい、季節を通して。タンチョウは村の大事な観光資源でもあります。知る人ぞ知るという意味では、近年、そうした観光客とはまた別に、キャンプ場に集う人たちが多く、話題になってきています。

—キャンプ場に。どんな人が集うのでしょう?

大石村長:いろんな方がいらっしゃるのですが、なにやら一部キャンパーの間で聖地のようにいわれているらしく…。

—聖地!ですか。

大石村長:「来年も鶴居村のキャンプ場で会おう」のような感じの会話がなされているとかで、ピークには村の人口がずいぶん増えるくらいの人気なんです。「つるいキャンプ場」というフリーサイトで、村が無料で開放しているのですが、トイレや炊事場などがきれいだったり、すぐそばに温泉施設があったりと、使い勝手がよく、無料はないんじゃないかという声もあります。村にはより施設の充実した有料のオートキャンプ場もあるので、確かに大盤振る舞いかもしれませんが(笑)、皆さん、マナーも良いですし、私はこのまま無料でいいと思ってるんですよ。

—「来年も鶴居村のキャンプ場で会おう」、ですか。面白いですね。

大石村長:はい。毎年来て毎年ここで会っている人たちがいたり、オープン期間中ずっと滞在されていたり。プランターで花を並べている人さえいて、もはや“住民”のような(笑)。

—あはは。それはもう、ひとつのコミュニティみたいな感じですね。

大石村長:まさにそうですね。北海道新聞に大きく取り上げられたこともあります。

—そうした寛容さもまた、鶴居村が移住者を引きつける理由になっているのかもしれませんね。

大石村長:そうだと嬉しいですね。村民たちはもともと、概して気質が穏やかというか、おおらかでおっとりしているように思います。

つるいキャンプ場

ここの“住民”みたいな人もいる、つるいキャンプ場。

理想的な田舎?

—村内は、釧路湿原を有する自然の風景や、緑の牧草地は言わずもがな、人の生活するエリアもきれいなのが印象的です。公共の施設も、住宅街も整然としていて、家々のお庭もきれい。

大石村長:そうでしょう。行政としては村の景観に心を砕いていますが、個々の住民に呼びかけてそうした運動をしているわけではないんですよ。協力的といいましょうか、地元への愛情なのでしょうね。それが伝わるからなのでしょうか、外から移住されてきた方々も、自分たちでできることはするというスタンスで、地域を良くしようとしてくれています。

—お話をお聞きしていると理想的で、課題などないように聞こえます(笑)。

大石村長:いえいえ、もちろん、人口の減少とか、少子高齢化といった課題はご多分にもれず。ただ、人口については、激減まではしておらず、ここしばらくはほぼ横ばいです。子どもたちの教育に力を入れていて、学力は全国平均より上を保っていますし、このような地方の自治体としては、胸を張れる部分が多いと自負しています。

—これからどのようなことに、特に力を入れてゆかれたいでしょう。

大石村長:子育て環境の充実、太陽光やバイオマスなど再生可能エネルギーの推進、さらなる観光振興などいろいろありますが、やはりなにより、鶴居村の基幹産業である酪農を盤石なものにするために力を注ぎたい。一次産業がしっかりとしているのが村の本来の姿だと考えるからです。

村営住宅

まるでヨーロッパの町?写っているのは村営住宅。

価値ある農業を、次世代につないでゆくために

—酪農大国としては、TPPの問題がかなり切実ではないですか。

大石村長:住民の多くが酪農に従事する村ですからそれはもう。少し話が脱線するようですが、村の学校では、参観日にお父さんの姿が多く見られるんですよ。なにを言いたいのかというと、農業には農業生産のみではない価値があるということです。会社勤めのサラリーマンよりも子どもの側で生活を営んでいる。

—なるほど、そうですね。

大石村長:現代のサラリーマンの、核家族のライフスタイルでは、子育てに関して行政の関与がより大きく求められるため、当然、財政的な負担も大きくなるという側面もあります。子どもが親の姿を見て育つことができ、三世代が一緒になってできる仕事でもある農業を、是が非でも次世代につなげてゆきたい。

—鶴居村のチーズは全国区ですものね。そうした、付加価値の高い製品を独自に生み出して認められることが、厳しい時代を生き残るひとつの手段ですよね。

大石村長:その通りです。お陰さまでチーズは大人気で、生産が追いついていない状態です。もっとも、工房で手づくりするからこそのクオリティは担保しないと価値がないので、大量生産は見越していませんが、今後はチーズ以外にも、この村の良質な牛乳だからこそできる、多様な乳製品を世に送り出したいと考えています。

大石村長

気さくな大石村長。話が酪農の将来におよぶと言葉に熱がこもった。

鶴居村のじまんの人 和田正宏さん ホテルTAITOオーナー、写真家
和田さん

昭和31年、鶴居村に生まれる。村内のホテル「TAITO」のオーナーであると同時に、タンチョウの写真を撮り続けるプロの写真家で、約30年にわたり、多くの作品を発表している。日々の宿泊者向けに釧路湿原のネイチャーガイドも務めながら、タンチョウの素晴らしさを発信し続けている。

鶴居村の魅力は、ズバリ、ツルのいるところ!タンチョウに選ばれた村ですからね。だって、棲める環境が残っているということでしょう。私は写真が好きなのではなく、ツルが好きで写真を撮りはじめました。死んだら、ツルのいる湿原に骨をまいてほしいくらい(笑)、惚れ込んでいます。美しいだけでなく、まるで人間のように喜怒哀楽があって、私にとっても、この村の多くの住人にとっても、もはや鳥という感覚がないほどです。
若い頃、いったん村を離れてから、当時旅館だった現在のホテルTAITOを継ぐために戻りました。我がふるさとが大好きです。リスキーだからと私が止めるのも聞かず、父がここに温泉を掘って、幸運にも出た温泉が素晴らしかった!お陰で、ツルと美人の湯を堪能しに、国内外からお客さんが来てくれます。今となっては父に本当に感謝しています。自慢の鶴居村に、是非遊びに来てください。

編集後記

鶴居村はきれいでした。自然も、人の営みの景色も、丁寧に保たれている感じが伝わりました。まず、村内を流れる川の護岸など、広範囲に(まるでゴルフ場のように!)芝生が刈られているんです。公共の施設はどれも派手すぎずも立派だし、村営住宅はおしゃれだし、中心部に整備されている市民農園だって、緑道だって、ずいぶん洗練されています。ご案内くださった役場の方に、「鶴居村はお金持ちなんですか?」と、聞いてしまいました(笑)。「無駄遣いせず堅実にやってきましたので、お陰さまで財政は大丈夫です」と、余裕?とも取れるお返事。移住者に人気というのも無理ないですね。整然とした村内を眺め歩きながら、ずっと、「割れ窓理論」が浮かんでいました。割れている窓一枚を放置すると、それが、地域が関心を持たれていないというサインとなって、犯罪を誘発しやすくなるなど荒れてゆくというあれです。鶴居村はその逆のパターンのように思いました。(2014年8月取材)

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