キラリと光る町
大和村

生のままで出荷できるすももはごくわずか。おいしく加工することでもっと多くの人に食べてもらい、村おこしにつなげてゆこうと頑張るのは、「まほろば大和生活研究グループ」。60代を中心とした女性の皆さんが、主婦目線で試作を重ね、オリジナル商品を生み出してきました。どれも添加物を使わずに、貴重なすももを大事に生かした、素直で真面目な商品です。お土産として購入されるほか、一部はふるさと納税の特典として、寄付者に贈られてきました。その場で食べられる商品も欲しいと、2015年にはソフトクリームも、満を持してのデビューです。

泉美保子さん
まほろば大和生活研究グループ 代表

大和村をこよなく愛し、村の仲間に愛される、まほろば大和生活研究グループのリーダー。グループでは、すもものオリジナル加工品を中心に、同じく特産のたんかんのマーマレードや、かしゃ餅(ヨモギたっぷりのお団子を、月桃の一種で独特の香りと抗菌作用を持つクマタケランの葉にくるんだ奄美の名産品)も手づくりしています。おいしいものをつくって、人に喜ばれるのが大好き。

泉美保子さん

いかにもおいしいものをつくってくれそうな雰囲気漂う泉さん。「昔はもっと細かった」太っ腹を叩いて、明るく「ガハハ!」と笑う、こころやさしくチャーミングな島のおばちゃん!(ご自宅にて)

行政無線で「摘果」のアナウンス?

—加工場を見させてもらいました。丁寧な作業工程もさることながら、きびきびと働く、皆さんの楽しそうな様子が印象的でした。

泉さん:そうなの。つくり手のおばちゃんは全部で7人いて、皆でぎゃーぎゃー言いながら楽しくやって来ました。でもつくることには真剣ですよ。ぎゃーぎゃーも楽しいけど(笑)、いいものができて、おいしいと言ってもらえたときが、やっぱり一番嬉しいですね。

—皆さん、主婦としてはもちろん、つくり手としてベテランですよね。

泉さん:前身の活動を入れると、もう二十年以上になります。規格外のすももの活用を考えたくて、有志で集まったのが発端。お金になる活動ではなかったから、メンバーたちが子どもの大学などでお金がいる時期にさしかかったとき、働きに出なくちゃならないからいったん休止したの。落ち着いた頃に復活して、今にいたります。

—そうですか。すっかり気心の知れた仲で…、どおりで息がぴったり。

泉さん:そうそう、昔から家族ぐるみでよく知る仲だもの。

—すももも、長く親しんできた果物なんですよね。

泉さん:そうですよ。昔は庭で育てている家も多かったですね。もいで生で食べるほか、黒砂糖や氷砂糖で煮たり、シロップ漬けにしたり、家庭でもやるんですよ。梅雨の後半あたり、ちょうど体が疲れてきた頃に食べるとおいしくてねぇ。クエン酸の働きかな、不思議と疲れがとれるの。

—へぇー、自家用でも。旬の果物で、疲れがとれるというのもいいですね。

泉さん:これがまたちょうど、毎年その時期に食べたくなるものなんですよね。

—大和村で、行政無線というのですか?スピーカーから「すももの摘果を行ってください」と聞こえてきたのが衝撃でした。響きわたってましたから(笑)。ああやって、村中の人が一斉に、「摘果」の情報を共有するんですね。

泉さん:そうそう、あれはね、収穫は近づいてくると、しょっちゅう流れてくるんですよ(笑)。昔は摘果せず、たわわにならしていたの。だから選果場でたくさんはじかれて、大量に捨てられていたんですよ。心が痛みましたね。

※果実が幼いうちに間引いて、残した実に栄養を行き渡らせて大きく育てるための調整作業。

「まほろば大和生活研究グループ」のメンバー

「まほろば大和生活研究グループ」のメンバーの皆さん。この日は加工場の前(すぐキラキラの海です…!)でお外ランチ。この笑顔の前には、美魔女なんて目じゃない!

メンバーお手製のすももカップ

コーヒーブレイクに使うメンバーお手製のすももカップ。全員分、それぞれにちょっとずつ異なり、イニシャルも入っているところがたまらない!

「もったいない」から始まった活動。豪雨災害も乗り越えて

—今は皆さんが加工するようになったから、廃棄せずに済んでいるんじゃないですか。

泉さん:そうなのよ。もともと「もったいない」から始まった活動ですしね。今は規格外サイズの実も、無駄なくおいしく誰かの口に入るようになりました。成分を調べたら、アントシアニンがブルーベリー以上に含まれてるんですって。病院食に採用されたこともあるんですよ。体にいいと聞いたら、なおさらつくる意欲がわきます。

—素敵ですね。でも、ご苦労もあったのではないですか。

泉さん:2010年秋の豪雨災害のあとはね、すももが水っぽくてぜんぜんおいしくなくなってしまったの。素材がおいしくないと、いくら加工を工夫してもダメでした。果実に酸味が乗ってこないので、レモンを加えたり、いろんなことしてみたんですけど、中途半端な商品を出荷してもブランドを落とすからやめることに決めました。悲しかったですね。

—収穫は年に一度ですもんね…。

泉さん:台風は慣れっこですけど、あんな豪雨は私たちも初めて。その影響で、すももがあんな風になってしまうとは予想もできませんでした。木が弱ってしまったのか、翌年もダメでしたからね。

—農家さんもたいへんでしたね。

泉さん:本当に。

蒸し菓子「ふっくらかん」

セミドライのすももを刻んで入れた蒸し菓子「ふっくらかん」。同じく奄美群島の喜界島産黒糖のやさしい甘さで、つくり立てはまさに絶品。

すももソフト

満を持してデビューを果たした「すももソフト」は爽やかなおいしさ。

すももで村に仕事をつくるため、苦手な計算も営業も!

—そんなご経験も経て、2015年は東京・青山で週末に開催されているマルシェに、すももの商品を紹介しに行かれたんですよね。

泉さん:3月の初めに行きました。私も直接お客さんと接しましたよ!

—どうでしたか。

泉さん:皆さんが「おいしい」とすごく褒めてくれて、夢のようでした。すごく自信になりました。原料もつくりかたも妥協なしの自慢の商品ではあるけれど、田舎のおばちゃんがつくったものでしょ。おいしいものをたくさん知ってる都会の人の口に合うのかな…って、半信半疑だったの。「おいしい!」って言われるたびに、嬉しくてたまらなかったですね。

—あぁ、それは良かった!直接声が聞けるとなにより励みになりますもんね。

泉さん:いやぁ、感激しました。まほろば大和生活研究グループには、つくり手7人のほかに、PRなどを担当してくれている若手がいるんです。私の苗字が「泉(いずみ)」で、彼女は「和泉(いずみ)」。彼女のほうは細身だから「おっきいイズミ」と「ちっちゃいイズミ」(笑)。そのちっちゃいイズミにはずっと、私たちつくり手もお客さんと接する機会を持ったほうがいいって言われてたんですよ。だけど私たちは、つくるのは好きで自信があっても、うまくしゃべれないし、腰が引けて…。勇気を出して実際に接してみたら、ちっちゃいイズミは正しかったとわかりました(笑)。

—青山のお客さんにも認められて、やる気が増しましたね。

泉さん:そうなの!ますます頑張らないとね。すももの量は限られてるし、私たちも手づくりだからいっぺんにたくさんは生産できません。でも、そうゆうところを評価してもらえることもわかったので、これからもおいしさと安心を最優先にやってゆきます。

—大和村は、すももで村おこしですもんね!

泉さん:はい!私たちおばちゃんは、若い人のために仕事をつくりたいんです。農家もそうだし、加工、販売も。大和村で、すももで、若い人が食べられるようになるための土台づくりをしたい。今はそれが一番の目標です。原価計算とか利益率とか、マーケティングとか営業とか…ビジネスのことはむずかしいから、おばちゃんはただおいしいものをつくっていたいのだけれど(笑)、そんなこと言ってると目標を達成できないので、笑われながらもチャレンジしています。

すもも商品

「まほろば大和生活研究グループ」のつくるすもも商品のラインナップ。見た目は素朴、中身は贅沢。

大和村の景色

大和村では、宝物のような景色にも出会える。写真は、泉さんが結婚前にご主人とデートした思い出の場所♡

編集後記

「…初恋の味ですね」一口かじってそう言いました。南国の果物は、味も香りも華やかで官能的なものが多いけれど、大和村のすももはその対極ともいえる控えめさ。爽やかな甘酸っぱさ、微かなえぐみ。地味な感じすらします。一般に、高級なイメージもありません。そのすももを、ひとり娘のように大事に育てる農家さん、無駄なく使い、最大限の魅力を引き出そうとする加工生産グループのおばちゃんたち。いかに売り出すか、村長さんはじめ、村をあげて奔走し、初めてのソフトクリーム販売開始ともなれば、くす玉を割ってお祝いです。だんだん、大和村のすももはしあわせ者に思えてきます。
地味とまで言ってしまいましたけど、もぎたても、まほろば大和生活研究グループでつくられるさまざまな加工品も一通りいただいて、すっかりすももファンになりました。そして奄美大島・大和村は、自然に、人に、文化に、ぎゅーっと色濃い魅力が満載でドラマティック!これはもう、まったく地味ではありません。開いてくれた宴会も、忘れえぬ思い出です。(2015年5月取材)

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