キラリと光る会社
城南村田、コロナ禍で変革(変身)を遂げる!

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城南村田

2023特別編

城南村田、コロナ禍で変革(変身)を遂げる!

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「別の会社のようになったので」

キラリの取材でお会いした青沼隆宏社長からお電話があったのは一年後、2022年の秋深まるころでした。「あれからうちの会社のやってることが大きく変わって、記事にあるのとは別の会社のようになったので」と、それなりに読まれているため、何らかの形で更新してほしいとのご依頼でした。

確かに前回の取材時、主力のプラスチックトレイに未来はないので、近い将来シフトが必要とおっしゃっていました。「後継者問題に悩む経営者が多い中、困っているところをM&Aすることで、あらたな可能性を手にするのもひとつ」とも。ですがそれからわずか一年です。別の会社のようになった??と、少々不思議にも感じましたが、再取材に伺うと、これが本当に、変わってました!
ちなみに社屋も移転されていました。

ローテクのものづくりでは、世界に勝てる

「あれー、前とはずいぶん違いますね」と、きょろきょろしながら事務所に案内される私たち。以前は来客の多い会社であったこと、それがコロナ禍、リモートが多くなったことで変化し、駅近の便利な場所に事務所や工場を構えなくてもよくなったことなどを説明してくれました。同じ大田区のその事務所には、誰もが知る怪獣キャラクターに関する本や、ソフビ人形の外箱などが目につきました。

城南村田の主力だったプラスチックトレイは、クッキーなどこわれやすいお菓子を保護する目的で箱や缶の中にセットされます。人気の大きなテーマパークで大量に売れるお土産に使われていたのが、コロナによる入場者の激減で需要も激減。それをきっかけに、さらに付加価値のあるものづくりにシフトすることを決意した青沼社長は、ソフビ人形を本格的に手がけるべく舵を切ります。と同時に、金属加工関連の会社を、埼玉に一社、札幌に一社、札幌近郊の石狩に一社、M&Aでグループ企業化しました。事前にWebサイトを拝見して、「前回お訪ねしたときはこんなグループ企業はなかったはず」と思っていたところです。

みつばち社は都内の金属加工関連の町工場数社と近しくおつきあいさせてもらっているので、「溶接」「旋盤」「プレス」など、そこに並ぶ言葉にも馴染みがあります。しかしプラスチックの会社であった城南村田です。なぜに金属のほうに?という疑問を青沼さんにぶつけてみると、「日本が世界に勝てるところを考えてみると、まず、観光はいけると思いますが、これはうちには関係ない。次に、食材の輸出ですが、これは間接的にからめるかもしれず、後述します。あとはサブカルと、最後にローテクのものづくりです。日本の製造業は確かに厳しい状況にありますが、そうであっても、ローテクのものづくりに関しては、まだ勝てると思うんですよね」とのお返事。これは納得です。実際、溶接をはじめとする金属加工の作業が近い将来AIに置きかわるとは、まだまだ考えづらいと、私たちもかねて聞いていました。ソフビ人形もまた、成形技術がローテクだそう。キャラクターありきですし、愛好家は表情などの微妙なニュアンスにもこだわりますし、日本のものづくりに向いていそうです。青沼社長はこうもおっしゃいます。「IT、ITと、ずっと言われていて、もちろん業務のIT化を進めることに異論はありませんが、日本がITとかハイテク分野で世界に勝てる気はぜんぜんしない。それはそれでどこかに任せて、ローテクのほうにいったほうが勝機があると思うんですよね」。いや、ほんと、そう思います。

M&Aで、金属加工の分野に進出

城南村田は元々、紙業界にて事業をスタートするも、次第に先細ってきた業界に見切りをつけてプラスチックにシフトしたという経緯を持つ、なおかつ二度の合併を経験してきた会社です。近年、技術があっても後継者不在で廃業する中小企業が多いこと、その中小企業においてもM&Aという選択肢が徐々に一般化してきたことを踏まえて、「コロナを機に、いままで考えてきたことをいろいろがっつりやった」のだそうです。いかに実行力があるとはいえ、これまで直接縁がなく、技術も持たない分野にいきなりシフトするのはさすがにハードルが高いもの。M&Aでそうした企業にお仲間になってもらったほうがずっとスムーズだということ。

城南村田のM&Aは、人に残ってもらうM&Aです。決め手は、「経営者と直接お会いしてみて、一緒にやれると思える相手というのが大前提ですが、例えば同じ赤字でも、数字から努力のあとが見えることや、地場でお客さんを大事にしているかなど、いくつかの判断材料があります。今回の三社は、その点でもとてもいい会社でした」と。

それにしても、この一年ほどの間に三社が仲間入りとはなかなかの変化です。社員の方は驚いているのではないかと尋ねてみると、「かなり混乱してましたね。でも、耐性がついて、変化に強くなるのでいいことではないでしょうか」と、笑う青沼さんです。埼玉の会社、有限会社大樹については、先方の経営者の方が顧問となり、城南村田の社員の方が社長に就任する運びとなったそうですよ。このようなケースは、今後も増やしていきたい意向とのことでした。

次は稚内で、ホタテ!?

さて、北海道の二社、札幌の有限会社スズキ工業所と石狩の株式会社ワイエム・スチールについてです。2023年4月に合併するこの二社では、ワイエム・スチールが手がけてきた、防雪柵や雪崩柵など雪国らしい仕事と、スズキ工業所が縁あってあらたに引き受けることとした、ホタテ漁に使う八尺という大型の金属の漁具のメンテナンスの仕事を主軸に事業を展開します。八尺の話が舞い込んだときは、三度の飯より釣りを愛する(とは、実際にはおっしゃっていませんが、きっとそう)青沼社長、漁師さんと接点ができること大歓迎で、気持ち的に前のめり。しかも、やはり環境が厳しいと言われて久しい漁業にあって、ホタテは別格の勢いらしいのです。青沼社長の「日本が世界に勝てる」という、先ほどのお話の中に登場した「食材の輸出」においても、北海道のホタテは競争力抜群の、誰もが扱いたい高級食材。ところが漁に用いる八尺の修理などができる職人については減る一方で、大型ということもあり、引き受けられる会社もなかなかないと知った青沼社長、漁業のお膝元にそういう工場があれば一番助かるという関係者の声にスピード決断!なんと稚内に工場を新設することとし、2022年の秋に稼働を開始したというではないですか。いやぁ、確かにこれは、大きな変化というか、別の会社のようになっています。

稚内工場に必要な人材はなんとか揃ったものの、「できれば溶接の職人さんが、もっと欲しい」ということで、心得のあるみつばち2号がスカウトされかけましたが、それはこちらが困るため、謹んで辞退しました。そうなのです。溶接の職人さんは実は現在、あっちでもこっちでも足りておらず、ベーシックな技術を取得済みのみつばち2号も「つぶしがきくね」と言われる状況であります。こうしたものづくりに関心がある方におすすめの技術ですし、すでに腕に覚えがあり、最北・稚内にロマンを感じる方は、城南村田の青沼社長にコンタクトを取ってみられてはいかがでしょうか。

これがホタテ漁に使われる漁具の「八尺」。海中で曳きまわして海底を引っ掻き、出てきたホタテを網で獲る。

やすらぎ牧場構想は、実現するか

そんな青沼社長、「北海道のホタテは世界的に見ても一級品なのは間違いないので」と、いつか海外に向けて、水産加工と販売も手がけられるようになれれば…との思いをほんのりお持ちでした。一年でこれだけのことを決断、実行されたくらいなので、もしかしてそんな日も近いかもしれませんね。実は北海道は、東京生まれ東京育ち、生涯現役を目指す青沼社長が、うんと先に移住を検討している地でもあったそうです。「70歳くらいになったとき、仲間が集まれるコミュニティにできたらいいなと思ってまして。もちろん自分もやすらげる場所として、やすらぎ牧場という名の…」と、なんと名前まで決めていらした。しかも牧場。実行力抜群の青沼社長ですが、生涯現役がお似合いですしね、70歳過ぎても、やすらがずにバリバリ働いていらっしゃる気もします。さて、どうなるでしょう。

青沼社長

(2023年1月取材)

株式会社城南村田

※初回取材時(2020年11月取材)のプロフィール

城南村田は、ものづくりが盛んで知られる東京都大田区の蒲田地域で、主にプラスチックトレイを、金型から一貫製造しています。1949年に品川区にて紙の卸売事業を行う会社として創業。2002年に現社長が就任して以降、二つの会社の買収を経て現在に至ります。全国的にも数えるほどになった、手彫りで原型をつくる木型職人を有し、デジタル技術と併せたものづくりを実践。プラスチックトレイのほか、ソフビ人形の原型も手がけます。従業員約20名。新型コロナウイルスによる混乱で医療用資材が不足した2020年の春、急遽フェイスシールドを製造し、関係機関に寄贈して注目されました。
城南村田公式サイト

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