キラリと光る町
南阿蘇村

熊本県阿蘇郡南阿蘇村

南阿蘇村の所在地

「世界一のカルデラの村」南阿蘇村は、2005年に、長陽村、白水村、久木野村の三村が合併してできた村。人口12,000人弱と、村としては大きな自治体です。阿蘇山を望む雄大な風景、こんこんと湧き出る名水、名湯と名高い温泉。素晴らしい資源に恵まれ、空港から1時間以内というアクセスの良さも手伝って、全国からの移住者を惹きつけています。
キラリと光るまち第4回は、南阿蘇村の長野敏也村長にお話をお聞きしました。

南阿蘇村公式サイト

グリーンツーリズムで村おこし

長野村長

—三つの村が合併して約10年、めざす村づくりはできてきましたでしょうか。

長野村長:合併した三村は、景観の久木野村、水の白水村、温泉の長陽村と、それぞれが魅力を持っていました。お隣の村同士、行事など、昔からなにかと一緒にすることが多く、仲が良かったんです。課題がないとは言いませんが、村民同士は合併後も違和感はなくやっていると思います。村づくりにおいて、自然との共生に優先順位をおくという点でも、コンセンサスがとれています。ただ、具体的に形にしていくのは、まだまだこれからですね。

—具体的な形。構想としてはどのようなものがあるのでしょう。

長野村長:観光と農業、名産品の販売に、それぞれが相乗効果を生むよう力を入れていくことです。南阿蘇らしさを最大限に活かしたいですね。これまでは中継地点としてちょっと寄る場所に甘んじてきましたが、滞在型のグリーンツーリズムの振興を狙っています。トレッキング、ミニ登山、そしてカヌーをはじめとするキャニオニング。アウトドア用品のモンベルさんとコラボして、環境整備をする計画が進んでいます。特に女性のアウトドアファンを呼び込みたいです。

—アウトドアを愛する女性、とくると、地元のおいしい食べ物、そして温泉…つながりますね。

長野村長:村ではかねてより有機農業を後押ししているんですよ。生命力あふれるおいしい野菜、日本有数の名水、そして名湯。アウトドアで汗を流しながら、長く滞在して、きれいに、健康になってもらいたい。アウトドアの各種アクティビティの、インストラクターの養成も計画中です。

池の川水源

村内に11カ所ある水源。ここは中では小規模の「池の川水源」。鏡のような水面。

名水、名湯に負けないご当地自慢は高菜!

—おいしい野菜、中でも自慢は高菜ですね。

長野村長:そうそう、ここは寒いですからね、九州の産地の中でも、とりわけ、ピリッと辛みのきいた「阿蘇高菜」という旨い高菜がとれるんですよ。郷土料理の高菜めしも、もっと有名にしたいですね。

—各家庭で栽培して、漬けて、それぞれの家庭の味があるんですよね。

長野村長:阿蘇高菜は、ひとつ一つ手で折る「高菜折り」と呼ばれる収穫方法で、細い茎の部分を採るのが特徴です。家庭によって微妙に味が異なるし、新漬、古漬、どちらも良さがあります。短い時期だけのお楽しみ、新漬のフレッシュさもいいですが、料理への応用範囲が広い古漬は、独特の香りが、これぞ高菜という感じ。ここの人間はみんな、高菜には一家言ありますよ。たくさん漬けて、親戚やら知り合いに送ってますね。

—いいですねぇ。ふるさとの味、おふくろの味ですね。

長野村長:どうもPR下手で、認知度では野沢菜に引き離されていますけれど、長野県の方には悪いですが、味は野沢菜より上だと思ってます(笑)。

高菜の新漬

春先の短い間にしか食べることのできない新漬。お茶請けにも、ほかほかご飯にも。

移住者に人気の地。
魅力にますます磨きをかけたい

—魅力の多い南阿蘇、移住先としても、ずいぶん人気ですね。

長野村長:リタイア後にのんびり暮らしたいという方、ここで新規就農するなどしてチャレンジする若いファミリー層、どちらもいらっしゃいます。ありがたいことに、移住者が移住者を呼び、最近は特に注目されてきました。

—どんな方に来てもらいたいですか。

長野村長:地域にとけ込んで、代々ここに住んでいる人たちと、双方にとって良い関係を築く意志のある方がいいですね。リタイア後にいらっしゃる方には、これまでのさまざまな経験を地域のために活かしてもらいたいですし、若い層には、ここに根づき、共に未来を担う主体となってもらいたい。循環型の持続可能な暮らしをめざす人たちが独自のネットワークをつくるなど、新しい動きも生まれているので期待しています。

—移住者を迎える自治体として、先に挙げられた自然環境や食、温泉のほかに、特徴やPRポイントはありますか。

長野村長:自分たちの地域は自分たちで管理するという考えが根づいています。住民の手による全村清掃のほか、伝統の野焼きもあります。それから、阿蘇山の麓の地ですから、災害への意識は高いです。災害に強い地域にしようと、自主防災組織を整えるなどしてきました。また、南阿蘇村は東海大学の農学部がある、全国でも珍しい「大学のある村」です。これからは文化面も整えて、より魅力ある自治体にしていきたいと考えています。

長野村長

村議会の会期中でお疲れのところ、お話を聞かせてくれた。

野焼きのあと

野焼きのあと。間もなく青々とした草原になる。

南阿蘇村のじまんの人 下田剣太郎さん 農家
下田剣太郎さん

下田農園の跡取り。昭和63年生まれ。田んぼに鯉と合鴨(恋と愛)を放ち、無農薬の“恋愛農法”で育てる「おあしす米」や、味も大きさも規格外の「場外ホームランメロン」など、先代から受け継いだ特徴ある農産物を、守り育てる。

農業は僕にとって天職です。小学生の卒業文集に「夢は農業」と書いて以来一直線、揺らいだことはありません。僕の世代としては、相当な変わり者のようですが、周りになにを言われようと、農家はカッコいいと思い続けて今に至ります。ビニールハウスを協力してつくったり、仕事を終えて一杯やったり、若手は少ないので年上のおじさんたちと一緒にやることが多いのですけれど、それがまた楽しい。友だちと女の子の話もしますが、トマトの話をしているほうが止まらなくなりますね(笑)。南阿蘇の農業は寒さが厳しい冬場が課題。年間を通して仕事をつくり、経営を安定させるためにはどうしたらいいか、県外の勉強会にも参加して、日々考えています。この地で農業をするからには、ここを豊かにしたい。南阿蘇を盛り上げたいです。農業と同じくらい、地元が大好きですから。南阿蘇には頑張りが認められる土壌があると思う。そんな地元の農業の未来を明るくできるよう、少ない若手を代表して、これからも精進します!

編集後記

南阿蘇村を訪れて最初に目に入るのはもちろん、阿蘇山の景色です。圧巻です。これまで、山を有する地で、地元民の「富士山愛」「会津磐梯山愛」に触れてきたので、ここの人たちは、さぞや「阿蘇山愛」があるだろうと思いきや、何人にお聞きしても反応は鈍く、それよりずっと「高菜愛」のほうが強いようでした(笑)。時期になると村民が一斉に、親戚などへ高菜漬の発送を開始するので、宅配便の荷物置き場は専用の箱が大量に並ぶそうです(実は取材後に私たちの元にも届き、大感激でした!)
阿蘇の風物詩、野焼きと共に忘れられない光景が、村内にいくつもある水源。その澄んだ美しさといったら、まるで神話の世界です。飲み水を、池に容器を沈ませて汲む人もいれば、その横で野菜(ちょうど高菜らしき青菜でした)を洗う人もいる。鮮やかな緑の水草に、小さな魚も泳いでいます。見て興奮する私たちの姿に、村役場の方は、「いや、ふつうですけど」と。驚きと魅力満載の南阿蘇でした。(2014年3月取材)

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