キラリと光る町
小値賀町

長崎県北松浦郡小値賀町

小値賀町の所在地

小値賀本島を中心に、大小17の島からなる小値賀(おぢか)町。佐世保から航路で2~3時間、人口3,000人弱の、東シナ海に浮かぶ島です。小値賀島は、遣唐使船の中継地点として重要視されたり、捕鯨の基地であったという理由から繁栄し、島に歌舞伎を呼ぶなど、その昔はずいぶん賑わっていたそう。現在は人が住まなくなった野崎島は、隠れキリシタンを象徴する、旧野首(のくび)教会が、世界遺産暫定リストに加えられた長崎の教会群のうちのひとつに選ばれています。
キラリと光るまち第5回は、小値賀町の西浩三町長にお話をお聞きしました。

小値賀町公式サイト

小値賀は「おぢか」と読みます!

西浩三町長

—小値賀町は、さまざまな観光関連の賞の受賞歴がありますね。

西町長:そうなんです。実は、私を含め、もともと島にいた人間には気づけなかった魅力に、Iターン者が光を当ててくれました。「島旅コンシェルジュ」を掲げる、おぢかアイランドツーリズムで活躍している人たちが代表的です。おかげでやっと、小値賀を「おぢか」と読んでもらえるようになってきたところです(笑)。

—賞をお取りになっているだけあって、観光では思い切った取り組みをどんどん実行されてきた印象があります。

西町長:そうですね。最近はいろいろな自治体で同様の取り組みがなされるようになり、ライバルも増えましたけど(笑)、前述のおぢかアイランドツーリズムが中心になって手がけた、古民家再生や、民泊、廃校を利用した野崎島自然学塾村。ほかに修学旅行の受け入れも積極的に行っています。

—小値賀町に修学旅行とは、うらやましい限りですが、アメリカからも学生が来島して民泊を体験し、大評判だったんですよね。

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石垣に石畳。小値賀島の町並みには、観光用に整備されたそれにはない表情がある。

満足度「世界一」を獲得

西町長:毎年2万人以上の学生を国際修学旅行に送り出しているアメリカの国際交流財団、ピープル・トゥ・ピープルによる「PTP学生大使プログラム」というのがあります。体験した学生を対象にしたアンケートで、小値賀町を2度も満足度「世界一」に選んでもらいました。それには私たち自身がびっくりしたくらいで。

—すごいですよね。世界一になって、民泊を受け入れた側の町民の皆さんの反応はどうでしたか。

西町長:それはやはり喜んでいます。特別なおもてなしをしたわけではなかったので、なにがそんなに良かったんだろうと、喜びながらも不思議がる人が多かったです。最初は「英語もできないのに大丈夫か」とか、「お刺身は食べてくれるのか」とか(笑)、心配してたんですけれど、日本の田舎の素朴さが良かったんでしょうかね。小値賀の人はみんな地元が好きだけど、島の魅力を客観的にはかる機会はそうはない。受け入れる側としても、刺激になったと思いますよ。

—確かに、受け入れる側の人たちにとっても、刺激になりそうです。

西町長:外国人学生のホームステイはおろか、観光でだって、外国人がたくさん来るようなところではありませんでしたから、町民からは、交流によって「若返る」なんて声も聞こえてきましたよ。

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魚の味は格別。「よそでは食べられない」と島の人が口をそろえる。

第一次産業の復興をめざす

—野崎島の旧野首教会が、ユネスコの世界遺産暫定リスト入りした「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の中に含まれていますし、観光では今後ますます注目が集まりそうです。

西町長:チャンスであり、課題ですね。いざ世界遺産に正式に登録されたとしても、今のままでは受け入れるのが大変です。というのも、ホテルもないし、今は飛行機も飛んでない、佐世保からのフェリーと高速船は合わせて1日に4本です。アクセスの悪さに関しては、観光だけではなく、住民生活にとっても大きな課題なんですよ。

—部外者が無責任なことを言いますと、2~3時間船に揺られて離島を訪れたいと思うような人にとっては、それも旅のうちというか、アクセスの悪さはあまりデメリットにならない気がしますけれど…。町民の方の、例えば通院などになると確かに課題ですかね。

西町長:佐世保でちょっと用事を足そうと思っても、日帰りで済まなくなってしまうんですよ。いくら観光で注目されても、観光は基幹産業にはならないというのが私の考え。第一次産業を残していかないといけない。農業については、ちらほら新たに始める人もいるのですが、素晴らしい魚が揚がる小値賀に、漁業の後継者がいないのは大問題です。小値賀に生まれ育ち、小値賀が好きで住み続けたいと願う若い人たちは多いんです。そうした若者が、この島の暮らしに将来の希望を感じられるようになるためにも、アクセスの悪さを解決したいです。

—漁業の復興。これは非常に大きな課題だと思いますが、町としては、どのような働きかけをされていかれるのでしょうか。

西町長:いかにいい魚が穫れるといっても、ただ穫るだけではもうダメですよね。小値賀の場合は、いい魚を活かしきれていないので、ブランド化したり、そのためのPRにも力を入れる必要があります。同時に、例えば船を貸し出すなどして、漁業に参入しやすくする施策などを進めてはどうかと考えています。日本人の琴線に触れる景観だって、人の営みがあってこそのもの。若い人も入っていけるような産業に復興して、ここに定着してもらいたいです。

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ドラマを感じずにはいられない野崎島の旧野首教会。世界遺産登録間近か。

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小値賀ブランドの水産資源を都会に届けるため、飲食チェーンとの協業計画も進行中とのこと。

小値賀町のじまんの人 迎真志さん 畜産農家
迎真志さん

昭和56年生まれ。実家は小値賀島で代々の兼業農家で、真志さんが初めての専業。高校時代は野球部のキャプテン。隣の島出身で、インターネット放送のリポーターなどしていた当時長崎市在住の女性が来島していた際に恋に落ち結婚。島で知られる美男美女夫婦に。

僕が子どもの頃、小値賀の家庭ではどこも2、3頭の牛を飼っていて、家族のようにして暮らしていました。みんな放牧させていたから、牛が草を食べ、荒れ地がなくてきれいだった。それが今は、小値賀の風景のなかにすっかり荒れ地が増えてしまいました。耕作放棄も増えたし、家庭で牛を飼う人だけではなく、畜産農家の後継者が減ってしまったからです。島には仕事がなく、若い人が出て行ってしまう。僕の同級生も、残っているのは50人中10人くらい。みんな、小値賀が好きなのに、仕事のことがネックになって戻って来られないと言います。だけど思うんです。ひとり帰って来ても、なにも生まれないかもしれないけれど、みんなで帰って来たら、新たな仕事だって生まれるんじゃないかって。僕は僕で、自分なりにこの島を良くする先頭に立ちたい。まずは頑張って牛を増やして、子どもの頃の小値賀の風景を取り戻したいです。

編集後記

小値賀島では、民泊させてもらったお宅で、お鮨屋さんや定食屋さんで、それはそれはおいしいお魚をいただきました。島内では珍しくないらしい天然のうなぎも、島の人曰く「ほかにおいしい魚がいくらもあるから」そんなに食べないんだとか。何とうらやましい。
お魚と並び、島の人が誇りにしているのが小値賀の歴史。島を歩きながら、かつての栄華の名残を探すのもまた一興。正式に世界遺産になった日には、さぞや観光客が増えるであろう野崎島もまた、ドラマチックな歴史を持つ印象的な場所。失われた集落には、今も暮らしの気配が残り、小さな島のなかで、くっきりとした人の生活の跡と、サバンナを思わせる不思議な景色、静かに生きる鹿の姿を、一度に見ることができます。そして、高台に建つ旧野首教会。椿をモチーフにしたステンドグラスの織りなす美しい光に、隠れキリシタンの祈りを思います。
個性的な旅をお探しの方、是非、おぢかアイランドツーリズムにご相談を。(2014年3月取材)

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