キラリと光る町
芽室町

北海道河西郡芽室町

芽室町の所在地

十勝の拠点都市、帯広市と接する芽室(めむろ)町。地名の由来はアイヌ語の「メムオロ」で、「川の源の泉や池から流れてくる川」という意味なのだそう。十勝平野の肥沃な大地、日本有数の晴天率、寒暖差の大きさ。農作物を育む条件のそろう芽室町は、その4割が農地で、日本の食糧基地といわれる十勝の中でも存在感のある農業王国です。人口は2万人弱。ゲートボール発祥の地としても知られています。
キラリと光るまち第2回は、芽室町の宮西義憲町長にお話をお聞きしました。

芽室町公式サイト

町づくりの主体は町民

宮西町長

—町の一番の自慢はなんでしょう。

宮西町長:芽室町は農業の町ですからね。とうもろこしも、ビート(甜菜)も、生産量日本一。ですから「農業」という答えが妥当なのでしょうが、私はあえて、「町の人たちのパワー」と言いたい。農業青年を含め、特に若い人たちがパワフルなんですよ。芽室町の目指す「恊働の町づくり」の主役は、言うまでもなく、人ですからね。

—若い人たちがパワフル。昔からそうした風土があったのでしょうか。

宮西町長:そう思います。脈々と受け継がれて来ましたし、行政も、「自分たちのまちのことを自分たちで考えて決めていく」と掲げて、町民参加の仕組みづくりに力を入れてきました。当事者意識を持って、町を良くしていこうと考え、動く人たちが一人でも二人でも増えるほどに、町としての力が増しますからね。

—町の人たちが自ら取り組んできたことの事例を紹介してください。

宮西町長:大小、各種イベントは多いですよ。夏に行われる花菖蒲のお祭り「イリス・フェスタ」、冬だとバレンタインデーの夜に約5,000個のアイスキャンドルを灯す「氷灯夜(ひょうとうや)」もそうです。いつも賑わっているファーマーズマーケット「愛菜屋(あいさいや)」も、小さな無人販売所からスタートして、生産者自らが頑張って盛り上げていった。運営上のルールなんかも自分たちで考えてますから、いい店になるんだと思いますね。

愛菜屋

新鮮な野菜を求め、地元の人もたくさん訪れる「愛菜屋」。取材時は、ジャガイモだけで十数種類、溢れんばかりに並んでいた。

共にハーモニーを奏でようという人、求む

—人口も減っていない、元気な町となると、移住して来る人たちも多いですか。

宮西町長:芽室町では、定住移住を促進する試みを、今のようにあちこちで取り組まれる前から行っていたんですよ。子どもの減少で学校が維持できない地域に、移住者を呼び込んで廃校をまぬがれた例もあります。その地域には今も移住してくる人たちがいて、ちょっと面白い地区になっていますよ。

—良いモデルケースがあるから、外から新しい人たちが入って来やすいんですね。

宮西町長:そうですね。上美生(かみびせい)地区というのですが、山村留学も受け入れていて、その地区自体、少しずつ知名度が上がってきました。外から若い人たちが入ってくることは刺激になりますから、それがまた町の活力につながればこんな嬉しいことはない。ただし、外から人を呼ぶために、地域の顔を変える必要はないというのが私の考えです。昔の良さを伝承している町が素敵だと思いますし、町の個性とは、歴史に裏打ちされたものでしょう。そこに暮らして来た人たちこそが個性ですよね。

—移住を検討している人へのアドバイスはありますか。

宮西町長:どこの地域であっても同じだと思いますが、共にコミュニティを形成していくんだという気持ちが大切ですね。雄大な十勝の地に憧れを抱く人は多い。ともすれば「星がきれいだ」ということだけでも移住の動機になります。青空に大地、もちろん値段のつけられない大切なものですし、そこに魅力を感じるのは自然なことですが、コミュニティの一員になるという意識を持って来てほしいと思います。そのほうが、その人にとっても幸せな移住になると思います。新しい人が加わって、新しいハーモニーが醸し出されるのは素晴らしいことです。お互いに、一緒にハーモニーを奏でようというマインドが必要ですよね。

宮西町長

宮西町長はざっくばらんで饒舌。いろんな質問によどみなく答えてくれる。お話上手で引き込まれる。

人が幸せに育み、育まれる町にしたい

—子育て支援にも力を入れているそうですね。

宮西町長:これはもう、行政として当たり前のことですよね。少子高齢化なんて、何十年も前から誰もが予測できたことですよ。特に地方は深刻ですよね。本来国がもっともっと前から、うんと力を入れなくてはならなかったことなのに、いまだもって頼りない。待っていてもどうしようもないから、私たちは私たちで、できるだけのことをするんです。子どもの成長の段階に応じた相談サービス、託児のサービス、親同士の交流の場づくり。ここでも力を入れているのが町民参加です。介護も同様ですが、いかに、互いに寄り添って、町ぐるみで子育てができるかがカギだと考えています。

—今後取り組んでいきたいことはなんでしょうか。

宮西町長:これも子育て支援の一環とも言えますが、障がいを持つ子どもたちへの支援です。障がいを持つ子どもたちが、社会からはじき出されてしまわないような仕組みづくり、風土づくりには、今までも取り組んできましたし、これからもやっていきたい。障がいを早期に発見して必要な支援を行うところから、成長後の就労支援までをケアすることを目指しているんです。芽室町は農業の町なので、農業の現場で活躍の場をつくる試みを現在も行っています。こうした経験を通して、さらに、支え合い、つながり合う、町民の手による「恊働の町づくり」を進めていきたいです。

芽室町
図書館

十勝平野の景色もさることながら、町の図書館に感動。あたたかみを感じるのは、木をふんだんに使った内装や本棚だけのせいではなく、人の手で大切にされてきた歴史が漂っているからだと思う。

芽室町のじまんの人 小寺卓矢さん 写真家
小寺卓也さん

神奈川県出身。著作である美しい森の写真に言葉をのせた絵本は、全国の子どもたちに読まれている。(写真手前は著作の「いっしょだよ」/アリス館 ほか)

妻の故郷の芽室町に移り住んで13年。人が多すぎず少なすぎない芽室での暮らしはとても気に入っています。何より野菜がおいしい。中でもかぼちゃが好きですね。ふかして、塩だけで食べる。最高です。
僕は都会暮らしも経験しているから、都会の、人と文化の密度の濃さはすごいと思うけど、家族を持った今は戻りたいとは思いません。ふたりの娘は芽室町で生まれ育った芽室っ子。ここはもう、子どもたちの故郷でもあるわけですから、自分もこの地で生きて行くんだという思いです。だけど実は、冬になるといまだに不安にかられるんですよね。写真家という職業で、この先も食べて行けるのかなって(笑)。まぁ、きっと、なんとかなるかと!

編集後記

どこまでも続いてそうな、広い広い十勝平野がそうさせるのか、北海道の中でも、このあたりの人たちはとりわけおおらかだと言われているそうです。実際に訪れてみると、「そりゃあそうもなるだろう」と思わせる風景。宮西町長が雑談の中で、「北海道に住む醍醐味を味わいたいなら十勝でしょう」とおっしゃっていたのもうなずけます。芽室町を含め、十勝の冬は、雪こそ少ないものの、寒く厳しい。甘く見てはいけません。でも、地元の人曰く「芽室町の人はあたたかいって、みんな言う」んだそうです。小寺さんではないですが、寒い冬もなんとかなるかも、と思ってしまいました。(2013年9月取材)

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