鳥取県米子市に拠点を置き、地元鳥取県やお隣の島根県出身者を中心としながら、全国の幅広い仕事を手掛けるあおい総合設計。省エネ&ローコストの提案に強みがあり、とかく公共事業に偏りがちな業界にあって、民間の仕事を積極的に取りに行き、30代の社員を取締役に起用するなど、勢いが感じられる設計事務所です。いわゆる体育会系ではありませんが、フットワークの軽い若手が揃い、「イベントの多い会社」でもあるそうで、お堅い技術者集団でもありません。経済産業省が促進する「健康経営優良法人」認定企業です。
キラリと光る会社第53回は、あおい総合設計代表の浦川英敏さんにお話をお聞きしました。
—浦川さんは二代目ですよね。
浦川さん:はいそうです。26歳のときに一職員として入社して以来、早くから役員にしてもらって、2012年に代表となりました。
—お若いころから実力を認められていたのですね。
浦川さん:いえいえ、私の場合は、強いリーダーシップで引っ張るタイプではなくて、協調して、円滑にやっていくタイプですね。社長にと指名されたときはズシンと責任を感じました。
—社長になった当初はいかがでしたか。
浦川さん:なりたてのころはプレイングマネージャーでした。お客さんに指名されると行きたいし、スタッフのやっていることを把握して口出したくなるのを抑えて任せるのも大変でした。経営に徹して、経営者としての仕事を楽しめるようになったのはこの5〜6年です。
—業種を問わず、現場のほうが好きだとか、許されるなら職人でい続けたいとおっしゃる経営者の方もいらっしゃいます。
浦川さん:私はそれはないですね。設計は子どものころからの夢ではありましたが、役割としてどちらも楽しめています。
—子どものころから建築家になりたいと?
浦川さん:小学5年生のときの作文に、「設計士になりたい」と書いていました。そこからブレずにきましたね。
—小学生で。身近に同じ職業の大人がいたのですか?
浦川さん:それがなぜか違いまして。親父は漁師さんだったんですよ。少し関係がありそうなところでは、叔父に大工さんが一人いるくらいです。そのころに設計の仕事を理解していたとは思えないですし、なぜなりたいと思ったんでしょうね。手先が器用で絵が得意ではありましたけど、それを理由になりたいと思う職業でもないのに。
—でもそこから、この道に向かって。
浦川さん:工業高校で学んだのですが、卒業の年、ちょうど設計事務所に空きがあったんですね。就職難だからいま就職した方がいいということで、大学進学を断念して入社しました。でも入ってみると、与えられる仕事は大卒者と明らかに違っていて、悔しかったです。それに、意匠設計をやりたかったので、業務上、最初は若干不本意な思いで構造設計を勉強しました。構造設計をやっておいたことは後々正解だったと実感するのですが、そんな時期を経て、現在のあおい総合設計の創業者に誘われて、ここに来たんです。
—そうでしたか。小5のときに抱いた夢を叶えて就いたこのお仕事を、いまはどう思いますか。
浦川さん:できた建物がまちを彩ることができて、しかも30年、40年と残るのですから、そういうものづくりに携わることができる魅力的な仕事だと思っています。クライアントや地域の人に褒めてもらったり、認めてもらったりも励みになります。
—初志貫徹の職業選択が成功してよかったですね。
浦川さん:そうですね。そう思っています。
—設立40周年の2017年に、現在の「あおい総合設計」へと社名を改めています。
浦川さん:以前は 創業者個人名の事務所だったんですね。鳥取では知られていたのでもったいないと感じるところもあったのですが、ご本人の許可も得て変更しました。私の後にも続くであろう会社ですから、誰になっても違和感のない名前にしようと。「豊かな実り」や「大望」という花言葉を持つ、葵の名をつけました。
—そんな御社は、民間の仕事が多いのが特徴だと。業界についての知識がないのですが、それは特別なことなのですか。
浦川さん:昔から、公共工事がないと成り立たない業界で、それだけでやっている会社も少なくないですね。うちは提案力が高いのと、省エネ、ローコストの提案内容が認められて、県内のコンペは6〜7割というかなり高い割合で取っているんです。それでも鳥取の、この経済圏のつながりの中だけでやっていては、どうしてもパイが広がらないですよね。だから民間に打って出て、さらに全国の仕事を手掛けていこうと。
—それがうまくいっているのですね。特にどんな建物が多いですか。
浦川さん:工場だとか倉庫、商業施設、病院など、さまざまです。一般住宅は、CMとかで見るような大手か、あるいは2〜3名の事務所にはいいのですが、うちのように20名くらいの規模だと見合わなくなるので基本やりません。
—そういうものなのですね。省エネとローコストが特長とのことですが、特別なものなのでしょうか。
浦川さん:1997年に京都議定書が発行されて以降、省エネがより意識されるようになりました。材料の提案など、うちは早めに取り組み始めたとは思いますけど、そこまで特殊なことをしてきたわけではないんですよ。そこはある種の、ブランド力でしょうか。
—メンバーの、人的強さもあるのでは。
浦川さん:それはそうですね。重要なのは人だとの思いで、あおい総合設計で働きたい、設計してもらいたいと言われるよう、そのためにも職員が誇りに思えるような会社を目指してきました。
—育成においてはどのようなことを心がけていますか。
浦川さん:任せることですね。不安になりすぎないよう、要所要所バックアップしつつ、裁量を持たせています。そして、頑張るとステップアップできる、ステップアップした先にはさらにやりがいのある仕事がある、ということを意識できる機会をつくっています。事務所の中にばかりいるのではなく、手がけた建物を現地で見てもらったりもそうですね。「いつかはあなたにも、こういう仕事を任せるよ」というメッセージを送る。
—そういうところには、ご自分の、下積みといいますか、高卒で就職したときの経験が影響していますか。
浦川さん:あるでしょうね。私はそもそも、人と満足に話もできないような、目立たない子だったんですよね。クラスにいるかいないかわからない存在です。でも、学校でも会社でも、社会においても、みんなが4番バッターなわけではありませんよね。控えの中にも、時期やフィールド次第で輝く人がいるわけで、そういう人を見つけたいし、そういう人の努力も見ていてあげたい。うちには、まったくの素人で入ってきたけど、技術や知識をつけてもらって、いまでは専門職で活躍している人もいます。適性を見極めるのもこちらの仕事です。
—御社のWebサイトで印象的なのが、スタッフの方々みなさんを大きく紹介しているところです。ここまでのはなかなか見ません。
浦川さん:「うちの会社の売りは人」というのを見せたかったんです。人となりが伝わるようにしたかった。それに、ご家族に見てもらいたかったんです。
—あぁ、ご家族に!
浦川さん:あおい総合設計に入社が決まると、初めにご家族に会うようにしています。それだけではなく、例えばボーナスのときに、パートナーの方宛に食事券、お子さん宛に図書券をプラスして出したりします。「ボーナスが出たからパートナーを食事に連れて行って」と言っても、そう使われるとは限らないですよね、なのであえて食事券を贈る。すると、ちょっと特別な食事の時間をつくるだろうし、会社からご家族への感謝を示すことができる。家族の勤め先が顔の見える会社のほうが、安心してもらえるじゃないですか。
—そうですね。最近ちょっと残業とか出張が多いな、とかいったことがあっても、気持ち的に違いますよね。
浦川さん:まさにそうです。職員が誇りに思える会社にしたいので、そういうところもケアしながらやっています。
—採用についてはいかがでしょう。
浦川さん:新卒でも、優秀な人を中心に、県外に就職を希望するケースが多いのでなかなか大変ではあります。会社のためにはしっかりとしたスタッフが必ずいなくてはなりませんので、費用をかけてでも力を抜かないようにしています。双方のミスマッチを防ぐため、うちは入社前に必ず1〜2週間のインターンシップを挟むんです。ちょっとどうかな…と思う人にも情がわいて、こちらから断れなくなることもありますが(笑)。
—でもそういう方が、化けたりもする。
浦川さん:そうそう。要は育て方だと思っています。
—正直、設計事務所で、ここまで人重視のお話を聞けるとは思っていませんでした。
浦川さん:いえいえ、重要なのは人です。職員には、自分のためにも会社のためにも、「あおい総合設計の誰それ、ではなく、誰それのあおい総合設計」と言われるようになりなさいと、いつも言っています。
—地域に対してはいかがでしょう。地元ご出身ですもんね。
浦川さん:地元には愛着がありますね。やっぱり生まれ育った場所だからでしょうかね、出張などで出かけても、大山(だいせん)を見ると、「帰ってきたな」という、どこか安心するような気持ちになりますね。
(左から)堀江さんは2001年入社の常務取締役。引野さんは2019年入社の取締役構造課長で、金山さんは2022年入社の設計主任。お三方とも転職組で、設計部に所属する一級建築士。堀江さんと金山さんは主に意匠設計、引野さんは構造設計を担当しています。「自分の弱点は体毛が多いところ」との発言に、堀江さんに「嫌味しか言わない!」と小突かれながらも、「うちのエース」と称賛される引野さん。その引野さんが(いくら自分が面白いことを言おうと頑張っても)「自然体にはかなわない。自分なんかかませ犬」と語る相手は金山さん。なんなのでしょう、確かになにかがおもしろい(笑)自然体・金山さんは、堀江さんが長年担当してきたトイレ掃除の重責をいまは担います(笑)。
堀江さん:前職は250人くらいの事務所でした。分業が進んでいたので、移ってきたここでは上流から下流まで任せてもらえたのが嬉しかったです。手がける建築物のジャンルが広いのも魅力ですね。社長は、ビジネスにしろ働き方にしろ、良い方向に変える挑戦を恐れない人です。私は元々、ずっと会社にいてひたすら仕事をしていられる人間でしたが、自分が任せてもらってうれしかったのですから、後輩を信頼して任せるのも、いまの自分の仕事だと思ってやりすぎないよう心がけています。最近、ランニングが趣味の金山さんのススメで走ってみたら肉離れを起こしました(笑)。
引野さん:松江出身で、米子は妻の出身地です。ここでは手がける案件がとても多様で、過去のコピペのようなことをするのは不可能なので、いつもあたらしく知らない分野の勉強をしている状態です。チャレンジングなことにこそ、成長を感じられて燃えるタイプなので、楽しんで、やりがいを持って働けています。会社としても、意見を拾い上げてくれるだけでなく、チャレンジに前向きな社風があるので、自分に合っていると思います。休日はもっぱら、家族とベタベタしてますね。5歳の娘がかわいくて。小さい子特有の、滑舌がちょっと悪いところがもう、かわいいです♡
金山さん:以前は業界でアトリエと呼ばれる、意匠設計の小規模な事務所にいました。結婚を機にUターンしてこちらで仕事を探すことにして、あおい総合設計には、最初はつなぎのつもりでアルバイト入社したのですが、いままで続いています。社長は周りが見えていて、課題があれば、改善のためのアクションを適切に取れるのがすごい。意見も聞いてくれるので働きやすいです。僕自身は、心身が丈夫で、平均点をとりながら継続できるところが強みだと思っています。趣味のランニングでは、自分でメニューを作って計画的に練習して、トライアスロンにも出場しました。
Webサイトから、「伝えたいこと」があふれているように感じたあおい総合設計。実際に伺ってみると、「じまんの人」のお三方があまりにおもしろくて、取材の最後にお話をお聞きしたこともあり、事務所を後にするときには、「あぁ、おもしろかった!」という感想に、うっかり総括されてしまうところでした。もちろんただおもしろおかしいだけではなく、浦川さんからお聞きした、社員の方に対して心を砕いている点を裏付けるかのようなお話がお三方から自然と出てきたり、人間関係や風通しの良さが表れていたりと、感心するところも随所にありました。いつもふざけているわけでないことも、わかっています。その上で、笑いのある職場というのはやはりいいものだと思いました。プロフェッショナルでいて、笑いのある環境って、素晴らしいです。(2024年9月取材)