洋服のデザイナー出身の藤田勝治さんが手がける、バッグを中心としたレザープロダクトブランド。大量生産大量消費のファストファッション時代の到来に、「もっとつくり込む仕事がしたい」と革の加工やデザインを学んだ藤田さんが、2013年に立ち上げました。持つ人の個性にゆだねるようなシンプルなデザインと丁寧なつくりが、立ち上げから5年あまりで順調にファンを増やし、台東区にアトリエ兼店舗を持つほか、全国の百貨店などに、ほぼ毎月、イベント出店しています。
キラリと光る会社第18回は、SHOJIFUJITAの藤田勝治さんにお話をお聞きしました。
—藤田さんはもともと、洋服のデザインをしていらしたんですね。
藤田さん:はい。ものをつくるのが好きで、ファッションも好きでした。服飾の専門学校を出てしばらくは、洋服のデザイナーをしていたのですが、ちょうどファストファッションの波がきて…。もう少し落ち着いて素材と向き合ったり、つくり込む仕事がしたかったので、以前から興味のあった革のほうに移りました。
—同じデザインでも、ずいぶん違いますよね?
藤田さん:そうなんです。最初は靴づくりの教室に通いました。いろいろと探した末に、生産と販売を一貫して行なうバッグメーカーに就職することになって、そこで素晴らしい師匠に出会うことができました。多くを語らない人なのですが、3〜4年で独立するよう促してくれたんです。実際に独立したときも喜んでくれました。尊敬できる師匠の会社がバッグメーカーだったので僕もこうなりましたけど、そこが靴のメーカーだったら靴職人になっていたかもしれません(笑)。
—素敵な出会いですね。ご自身としても、やってみて、バッグ職人に向いていると感じたのでしょうか。
藤田さん:そうですね、向いていたと思います。好きでした。革という素材にずっと興味はあったとはいえ、メーカーに入ってみると知らないことばかり。改めて魅力的な素材だと感じました。師匠に「(バッグは)大事なものを詰め込む、おうちのようなもの」と言われたのが、だんだん理解できるようにもなりました。つくればつくるほどおもしろいと、いまでも思っています。
—どんなところがおもしろいですか。
藤田さん:工程は革の種類によって異なりますが、生き物由来の素材なので、同じ種類でも一枚として同じものがないんですよね。なので、ひとつのデザイン用の型紙を使いながらも、毎回同じことをしているわけでは、実はなくて。同じことをしていては同じクオリティに仕上がらないんです。その都度手で触って確かめながら、完成形を考えながら…。そこがむずかしくもあり、おもしろいです。知らない方には意外かもしれませんけど、神経も時間も一番使う工程は裁断なんですよ。裁断は全部僕が自分でやります。
—裁断ですか。確かに、素人には意外というか、考えてもみなかったです。縫うところのほうが、職人の仕事っぽいイメージがあるかもしれません。
藤田さん:実は縫うのよりうんとむずかしいんです。縫うのはミシンがありますしね。傷がひとつもない革というのは存在しないので、慎重に確認しながら、小さな傷の部分をほかのパーツで隠れる位置に持ってくるなど、見えなくなるよう考えて裁断します。バッグが、平面から立体になってゆき完成を迎えると、いまも毎回うれしくなります。なんというか、パズルのピースがシュッと集まって完成した感じでしょうか(笑)?「できた!」って、毎回喜んでます。
—シュッと(笑)。根っからものづくりがお好きなんですね。デザイナーと職人と、ご自身としてはどちらなのでしょう。
藤田さん:ずっと、ただ黙々とつくっていられますし、そこに喜びも感じているので、その意味では職人寄りですね。でも、どちらかでいようと決めているわけではないです。もっと自由に、むしろどちらにも当てはまらないようなことをしたっていいと思ってます。
—それでいうと、経営もお仕事のひとつですよね。
藤田さん:はい。さっきも言ったように、個人としては、ずっとつくってるだけでいいんですけど(笑)、経営的には、やはり効率というものをどう考えるかが課題になります。工程でも、素材のクオリティでも、効率を求めて削る一方だとどこにでもあるものしかつくれませんから、効率が悪くても残すところは残します。逆に、これ以上ない素材で手間も時間もいくらでもかけて、というブランドでも、うちはないので、バランスを考えて線引きをします。
—だからでしょうか、SHOJIFUJITAの製品は、長く使いたいと思える風合いが、なんともほどよく成立していますよね。値段も、安価ではないけれど、高級ブランド品はもとより、ときどき見る匠の手によるクラフト製品ほどには高価でもありません。すごく良い方向に、合理的な感じがします。
藤田さん:そうなんです。経営的にも、つくり手としても、「これなら続けられる」というやり方をしています。僕はつくる側として、洋服もやってたし、靴もわかるので、ミックスした独特なつくり方ですね。使う道具も、業界の人が見たら一部を外注してるのかと思われるくらい少ないです。
—そうなんですか。バッグの製法というのは、一定なものなんですか?例えばハイブランドだとそれぞれに秘密のやり方があるということはないのでしょうか。
藤田さん:細かい処理の仕方は違っても、だいたい一様なやり方をしてます。いわゆるハイブランドのバッグは、すごく工程を重ねるんですね。多くの場合は、それに伴い薬剤も使います。僕もやってできなくはないのですけど、しません。
—では、藤田さんのつくり方のほうが特殊というか。でもそれが、効率にもかなっている。
藤田さん:そうですね。あと、いまの世の中ではむずかしくなっていますが、うちはお客さまに待ってもらっています。申し訳ないのですけど、「いつでもすぐに買える」の部分の効率の優先順位を下げさせてもらってるんです。
—優先順位、すごく共感できます。待ったっていいと思います。人間が手でつくっているものなんですから、それでいい。もっとそうした経済が当たり前になったほうがみんなのためだとすら思います。いずれにしても、SHOJIFUJITAを選びたい人は、待ってもいい人だとも思います。大袈裟かもしれませんけど、それって、買い手にとっても、哲学とか生き方ですよね。
藤田さん:実は僕らも、SHOJIFUJITAというブランドや、ものづくりを通して、どこか、生き方とか、暮らし方を含めた「シンプル」を伝えてゆきたいな、というところがあるんです。シンプルって、なにもないのとも、単にストイックなのとも違うじゃないですか。素直で、深い在り方だと思うんです。うちのバッグはデザインもシンプルですが、機能的にもシンプルです。機能や便利は追求していません。持つ人に主役になってもらいたいからです。ポケットとか、ファスナーとか、いっぱいついてると便利でしょうし、実際、言われることもあるんですけど、最少限にしています。その人なりの使い方で、その人自身が出るようなものになればいいなぁと思うんです。
—本当ですね。シンプルって、深いですよね。それに確かに、シンプルなものほど、着こなしたり使いこなす側次第ですね。年を重ねてからのほうがわかってきたかも。
藤田さん:僕自身、ここ10年で選び方がすごく変わりました。前はもっと着飾ってたんです。ファッションはいまも好きですが、着飾ることはしなくなりましたね。つくるバッグも、いつもスタンダードをめざしています。シンプルの中に、ほんの少しのクセがあって、日常的な変化も、経年変化も楽しめるもの。
—そうしたバッグづくりについては、藤田さんがひとりで考えるのですか?
藤田さん:いまは、スタッフとみんなで考えてつくっています。スタッフとの話し合いや、お客さまの声から、自分では気づけなかった視点を得てできるものもあるのでありがたいです。スタッフの中からは、ときどきずいぶん面倒なものが出てきますけど(笑)、うちはスタッフがみんな僕より年上だし、ハイブランドでの勤務経験があったりして、業界の先輩なんです。とてもじゃないですが、僕が威張って独善的なやり方をするなんて無理です!
—藤田さんはスタッフに怒ったりとか、ないんですか(笑)?
藤田さん:怒るだなんてコワくて無理です(笑)。
—あはは。でももともと、性格的に穏やかなんじゃないですか?
藤田さん:そうですね。静かなほうだと思います。でも、ここまで自転車で通ってるんですけどね、その日の気分で、「天気良くて気持ちいいなぁ、このままどこか行っちゃおうかなぁ」なんて、しょっちゅう思ってますよ。すごく気分屋だと思います。
—気分屋?機嫌の悪い日もあるんですか?
藤田さん:それはないです。
—まったく無害な気分屋じゃないですか…!
藤田さん:そうですね。平和だと思います(笑)。
—そんな平和な藤田さんですが(笑)、ご自身のものづくりや、SHOJIFUJITAというブランドを、今後どうしてゆきたいですか。
藤田さん:つくり手としての欲はそれほどなくて、つくり続けることが大事だと思っています。ただ、これからもあたらしいものはつくってゆきたいですし、もっとたくさんの人に届けたい気持ちももちろんあります。表情のない大量生産品をつくるつもりはありませんから、バカ売れみたいなことは狙ってませんけど、もっとスタッフを増やして、徐々に大きくはしたいですね。
—世界に羽ばたくとか。
藤田さん:ヨーロッパのお客さまに、「アンニュイでくすんだ感じの色が日本らしい」と気に入ってもらったことがあります。革製品といえばイタリアですが、あちらの光の下での見え方が日本と異なることもあって、確かにもっとビビッドな色調なんですよね。日本らしさを特段意識したことはありませんでしたけど、おもしろいなと。海外の方を含めて、もっといろんな人に見てもらえるようにしたいです。
—世界中のいろいろな人たちが、いろいろな個性で、いろいろな使い方を…。
藤田さん:そうなると一番うれしいですね。優等生な使い方じゃなくていいです。どこがこわれても、何度でも、修理しますから。
SHOJIFUJITAの製品には、シリーズごとにさりげなく名前がついています。バッグブランドとしては珍しくはないものの、どこかちょっぴり温度感が違います。その名はDEARMYFRIEND、SPECIALTHANKS、GOODLUCKなどなど。それぞれ命名するにあたって意味はあるとのことですが、重すぎる思いは込められていません(笑)。例えば、最初につくったバッグのDEARMYFRIEND(写真)は、もともとお友だちのためにつくったからだそうです。命名ルールは「口にしてハッピーな感じの名前」。シンプルなトートバッグのDEARMYFRIENDも、名前を聞かされてみると、性格を持つものであるよう感じられます。そうだ、SHOJIFUJITAの製品はどれも、性格が良さそうです。
SHOJIFUJITAというブランドに出会ったのは、都内のセレクトショップでした。もっと見てみたいとネットで検索し、電話で問い合わせたところ、あんまり感じが良くて、行く前に「買おう」と決めてしまいました。ありそうでないシンプルさ。すっかり気に入って徐々に買い求め、愛用し続けています。アトリエ兼店舗のあるあたりは、お寺があり、銭湯があり、少し足をのばすと調理用具街の合羽橋。浅草エリアの下町です。藤田さんも、ブランドを支えるスタッフの平野さんも、東京生まれの都会っ子。アトリエを、「さすがに手狭で、引っ越したい。今度はもう少し陽の当たるところに…」とおっしゃるので、青山にでもと思いきや、「いえいえ、この辺で。地元で材料を調達できて都合がいいんです」と。「陽のあたるところ」というのは文字通り、陽の光の入る物件という意味でした。なんだか安心して、同時に「やっぱり好きだSHOJIFUJITA」と、そっと心に思ったのでした。(2018年11月取材)