キラリと光る会社02 田中三次郎商店(本編)はこちら
キラリの取材でお会いした田中智一朗社長とは、ときどきメールやお電話で行き来がありました。ですから、あっちにこっちに飛び回っていらっしゃるようだという近況だけは知っていました。
お会いしたときと変わらぬ、きびきびとした話しかたで、なにをお尋ねしてもクイックレスポンス。今回のお電話でもそうでした。
田中社長「キラリでね、あのときお話しした内容と、今やってることがずいぶん変わってきたんです。なので更新をお願いしたい」
みつばち1号「ということは、もう一度取材ですか?」
田中社長「そうそう、お願いします!僕が東京に行って話しますから」
そうやって、2週間後くらいでしょうか、田中社長はやってきました。スーツケースを転がして、「今朝、鹿児島からいったん(福岡小郡市にある)会社に戻って、行ってきまーす!って、再び出てきたんですよ」と。気温高めの日でしたが、相変わらず爽やかです。
「一貫して隙間をいく」田中三次郎商店は、古くて新しく、グローバルでスモールな、たいへんユニークな会社です。田中社長は今回、こうも言いました。「事業の柱って、よく言いますよね。うちは小さい柱をいっぱいつくってやってる会社。大きな柱じゃなくていいから、ヘンテコなことでもやってみることができるでしょ」
すごくいいと思います!
今回お聞かせくださったのは、主に水産・環境事業部のお話。まず、養殖システムの開発を手がけているそうで、元気なお魚を安全で効率よく育てるために、ナノバブルなるものを使う画期的な方法を見つけ出したとのこと。養殖では人工的に注入する必要のある酸素。従来とは比較にならない60ナノミクロンという細かさの泡をつくって送り出す技術を開発されたそうです。このくらい細かいと、酸素が水の中に溶け込む割合が高くなり、空気中への無駄な放出が減るばかりか、副産物的に制菌効果も得ることができるそうです。結果、お魚は元気いっぱい。
昨今の漁業まわりはビジネス環境として厳しく、いわゆる「おいしく」ないため、参入する企業はあまりない。「一般には魅力的な業界ではないんです。でも、いいものができたら役立つじゃないですか。役立つし、うちみたいな規模の会社なら、これもまた事業として成り立つ可能性があります。今が旬な産業ではないと見なされているとはいえ、日本人の大事な食文化を支える産業であることにも変わりはない。だから、やってみる価値はありますよね」すらすらさらりと話す田中社長、うんうん!と、うなずきながらお聞きします。
新しいことに挑戦し続け小さな柱をたくさんつくり、業績はずっと順調。結果だけ見ても、田中社長は優秀なビジネスマンでしょう。そうではありますが、「ビジネスへの嗅覚が人一倍で、高いアンテナで次に売れるものをキャッチしては、スピーディに形にしてゆく」ビジネスマンとは、まったくタイプが異なるということが、お話ししているとわかります。順序が違うんですね。例えばこんなエピソード。
鹿児島に通う田中社長、目的は、「うなぎの保全活動」。絶滅が危惧されるニホンウナギの生息河川に出向き、うなぎが自力でのぼるにはむずかしい急な段差部分に、人の手による魚道を確保してのぼれるようにする。それから、人間が護岸をコンクリートで固めたことで減った、うなぎのすみかを確保する。どちらも、樹脂製のネットやカゴに石を詰めた、シンプルな仕掛けを設置します。これを市民の有志がおこなっていて、田中社長も参加していました。「だって、いい活動じゃないですか」と。純粋に、共感して心が動いたため、自分でもやりたかったそうです。ほかの人たちと川にジャブジャブ入って共に活動してゆく過程で、効果検証が必要な段階になったとき、その方法が意外とないことがわかった。水中カメラで撮影するほかないであろうが、四六時中撮影し続けるカメラをどこで調達できる?さらに、これまた四六時中、誰が映像を観察し続ける?と、ここで課題とニーズが浮上。「うなぎの寝床を撮影することをビジネスにつなげるだなんて、誰も考えませんよ。面倒だし、実現してもビジネスとしてのスケールは知れてるし。でも、必要だとわかったので、なんとかしようと考えるわけです。実際、むずかしいですよ。でも、いろいろ知恵をしぼるうちに光が射してくるものなんです」と、こうしてこれも、特許を申請する技術開発につながったそうです。うなぎ以外にも応用できそうだとか。
いつもビジネスの種になりそうなことを探しているのではなく、最初に、こころ動かされることありきなんですね。田中社長のお話の中には、よく「想い」という言葉が登場します。想いがあるから、出会うことができ、それがいつか思いがけない形でビジネスに発展するかもしれない。だから、社内外を問わず「想い」を持っている人、会社と一緒にやりたいと。それは、田中三次郎商店としての「想い」とぴったり重なっている必要はないのだそうです。「土地や株で一儲け、みたいなかけ離れたものはさすがに無理ですが(笑)、今は異質に見えても、なにかのきっかけでシナジーを生む取り組みが一緒にできるかもしれないでしょう」とおっしゃる田中社長、今後もやれることを増やしたいので、「巻き込まれてくれる人も巻き込んでくれる人も歓迎!」
田中社長は、自らの強みを「文系と理系のミックス」と表現します。人との会話を通して、なにが求められているか、つまりニーズをつかむことができ、それを形にするうえでのテクノロジーについても、基本的なところがわかっているから頭の中でモノがつくれてしまう。「文系も理系もどちらも特別には優れてはいないけれど、ニーズとテクノロジーを合体させる能力があるんですね」ふむふむ。
「今の時代、ものづくりは飛躍的にしやすくなっています。大量生産を必要としないものづくりであれば、少し前まで一握りの大企業にしかできなかった、例えば人口知能のような相当に高度なものであっても、うちにだってできる可能性のほうが高いと僕は考えますし、ある程度やってきました。ネット上で、誰でもアクセス、利用可能な情報がすごいことになっていて、以前の開発におけるプロセスは、多くの場合7~8割をスキップできてしまう」すらすらさらりと、楽しそうにお話しになります。
田中社長が、「想い」が必要だと強調するのは、どんなものも、つくろうと思えばできる可能性が高いからこそ、出発点としての「想い」に価値を置いているということなのですね。
人材に関しても、「自らやりたいことを持っている人。うちの会社でやりたいことが、最初からうんと具体的でなくても構わない。ただ、お互いに、うちで一緒にやる意味を見出せる人。自分にはこうゆう想いがあって、だから田中三次郎商店に加わりたい!と、語れる人がいいです」とのこと。
前述の水産・環境事業部には、素敵な人材が2名加わったそうですよ。どちらも海洋系の研究者で、北海道と新潟からやって来たそうです。
ちなみに、田中社長が次に出会うのを待っているのは、医療・医薬の分野に一定の専門性を持つ、そしてもちろん「想い」を持つ誰かだそうです。
「いやぁ、面白くなってきました!」と、実に楽しそうな田中社長。こんなに楽しそうに仕事の話をする人は、めったにお目にかかれません。お話は、都内・下町の小料理屋さんでも続き、お酒が入っても同じように楽しそうなのでした。最高ですね。
ほんの数日後、「今、札幌に着きました!明日は積丹、明後日は名寄の現場で作業です!」とメールが。はて、今度はどんな現場なのでしょう(笑)。
(2016年5月取材)
シブい会社名が歴史を物語る株式会社田中三次郎商店は、福岡県小郡市に本社を構える創業1877年の老舗企業。事業内容は「ふるい網、製粉機器及び海洋機器材の輸出入」。オリジナル製品の開発も手がけ、トップシェアを誇る商品も複数。四代目社長(現会長)曰く、会社をこの先も百年存続させる秘訣は「社員15人以下、年商15億以下、申告所得5千万円を守ること」。そんな田中三次郎商店は、米国にも事務所を置き、欧州の大手企業と取引きする、イノベーティブなグローバル企業です。
田中三次郎商店公式サイト