キラリと光る会社
田中三次郎商店

株式会社田中三次郎商店

田中三次郎商店イラストイメージ

シブい会社名が歴史を物語る株式会社田中三次郎商店は、福岡県小郡市に本社を構える創業1877年の老舗企業。事業内容は「ふるい網、製粉機器及び海洋機器材の輸出入」。オリジナル製品の開発も手がけ、トップシェアを誇る商品も複数。四代目社長(現会長)曰く、会社をこの先も百年存続させる秘訣は「社員15人以下、年商15億以下、申告所得5千万円を守ること」。そんな田中三次郎商店は、米国にも事務所を置き、欧州の大手企業と取引きする、イノベーティブなグローバル企業です。
キラリと光る会社第2回は、田中三次郎商店の田中智一朗社長にお話をお聞きしました。
田中三次郎商店公式サイト

最初のインタビューから約2年。今度は東京に田中社長をお迎えして再度お話をお聞きしました。
「2016特別編 田中社長来たる!」はこちら »

ご縁を大切に

—まず、「田中三次郎商店」という会社名が印象的です。

田中社長:そうですよね。社名を変えようという話が出たこともあったのですが、お客さんに反対された逸話が残っています。今となっては変えなくて良かった。

—老舗感もありますが、むしろ新しい感じもします。

田中社長:ここ福岡県小郡市で創業して130年以上。僕で五代目ですが、最近まで、いわゆる古民家を自宅兼社屋としていましたからね。そこを見ると社名がよりしっくりくると思います。

—創業以来の主力商品は網製品で、最近は海洋機材を?

田中社長:一見、まったく関係のない領域に進出したみたいですが、うちにとっては自然な流れで。祖父の代の三代目までは、小麦粉をふるう絹製の網を販売していました。当時はこの網に需要があって、国内30社くらいが競合していたそうです。ところが合成繊維の登場によって、それら同業者はことごとくなくなってしまいました。うちの会社もぎりぎりのところに追い込まれ…そんななかで嫁にきたのが長崎の網元の娘であるうちの母。この縁から水産関係の商品も扱うようになりました。もともと、漁師さんがプランクトンを採取するのに、製粉用の網が使われていたという偶然もあったにはあったのですけれど、じきに網以外にも、稚魚を入れるタンクだとか、新たな製品を頼まれるようになって、徐々に会社を支える大きな柱に成長しました。

—お母様、すごい!

田中社長:そうなんですよ。だけどこれに限らず、たくさんの、奇跡ともいえるような出会いに恵まれて、助けられて今があるので、ご縁の大切さは身にしみています。だから従業員とも、お取引先とも、過剰なくらいに(笑)親しくおつきあいします。ご縁ですから。

田中社長

一見、社名と結びつきづらい現代風のイメージの五代目は、人の懐に入るのが上手で、魅力的な人物。

かつては大きくしたいと願った。今はもっと小さくてもいい

—2007年まで、自宅と社屋を兼ねていたとのことですから、生活空間みたいな所に、従業員の方も出入りしてたんですよね?

田中社長:ひと続きで、扉を開ければ会社ですよ。子どもの頃からコンプレックスでしたね。だから小学校のときには作文に「後を継いでビルを建てたい」なんて書いてました。もっと会社を大きくしてやるんだって、わりと最近まで思っていたくらいです。

—でも、四代目の、現会長は「社員15人以下、年商15億以下、申告所得5千万円を守ること」と。

田中社長:そうそう。僕も今はそれに賛成です。すごく考えたんですよ、「大きくしたい、でもなんのために?」と。僕は東京の大学を出たあと、アメリカでコンピューター関係の仕事をしていました。ほぼ10年外にいた自分が、後を継いでここにいる意味ってなんだろうという自らの問いにも、何年も答えを探していました。結果、自分が最も大事にしなくてはならないことは、会社の文化を高めることだと気づきました。文化というのは織物のようなもので、日本という国の文化も、さまざまな個性を持つ組織や個人が、たて糸となり、よこ糸となって織りなし、次の世代へとつないでいるのではないでしょうか。翻って会社のそれを考えたときに規模が必要かというと、それだけではないなと。一本一本の糸は細くとも、その糸があるからこそ、輝くような織物ができる。それぞれの個性が合わさって、オンリーワンになり、それを大切に残してゆく。文化とはそういうものではないかと思うのです。ですから、規模だけで語るならば、今となってはもっと小さくてもいいくらいだと思っています。

—それにしても、「社員15人以下、・・・」とは、なかなか潔いですよね(笑)。

田中社長:子どもの頃「ビルを建てたい」と作文に書いた僕が大人になり、会社の規模拡大のことを口にしたとき、父親である先代がこう言ったんですよ。「田中家にはそんな能力はない。お前にそんな血は通ってない」って。面白いでしょう。まぁ、きっとその通りなんでしょうが(笑)、僕としては、少数先鋭で、「我々にしかできない価値を提供する」ことをめざしたいです。

作業の様子

業務用のネットは目の細かさから素材までさまざま。田中三次郎商店ほど多品種の在庫を持つ会社はそうはないそう。

隙間を追求し、隙間に生きる!

—田中三次郎商店はまた、隙間を追求することで、存在感を大きくしてきた会社ですよね。

田中社長:業務用のものばかり扱っていると、あるんですよ。マーケットが大きくないから改良に本腰を入れる会社がなくて、もう何年も、何十年もこの形、みたいなものが。そういうところに目をつける。うちが扱ってきたジャンルのものだけに限定しても、見方や発想を変えると意外にあるんです。だからいつもそういうことを探しています。

—はい、御社のウェブサイトを拝見すると、「粉体と水産の専門商社」とありますが、ラインナップについては、素人目にもニッチだなぁ…と。

田中社長:そうでしょう。一貫して隙間をいってますから。需要が知れている分、どんなにシェアを獲得できても莫大なまでの儲けにはなりません。だけど我々の規模ならそれで十分なわけです。モノだけじゃないですよ。例えばうちでは、魚に取りつけて、どのくらいの水温や水深の範囲を泳いでいるのかを記録するタグを販売しています。水産関係の研究機関などで調査に活用されるんですね。ただ、魚の生態に通じた専門家であっても、データ解析についてはプロではないので、その部分はなかなか効率よく行われていないようなんです。だったら、データ解析については、こちらでその部分を担う仕組みをつくれないか。そんなことを、思いついたからには検討中です。

—楽しそうにお話しされますね(笑)。

田中社長:楽しいですから。僕は元来仕事が好きなんですよ。僕より楽しんで仕事をしている人がいたら会ってみたいくらいに。もう、やりたいことだらけ(笑)。

—いいですねぇ。

オリジナルの包装用テープ

ネットを、手早く丁寧に梱包する。わざわざオーダーメイドしたという梱包用テープは、「売ってください!」と言いたくなるかわいさ。

まだ出会っていない人、募集中

田中社長:楽しくなければダメだと思いませんか?当たり前のことですが、ただ楽しいだけの仕事なんて成長もないし、刺激という意味でのストレスはある意味必要だと思いますよ。だけど、ものを生み出したいと思うなら、ワクワクできないとダメですよね。価値というのは、楽しみながら、想いがあって動いたときについてくるものではないでしょうか。

—はい、そうであってほしいと思います!そんな田中三次郎商店さんは、これからどんなことに力を入れていきたいですか。

田中社長:事業のなかでは、さっきも言ったようにやりたいことだらけですが、今は新しい仲間を迎えたいと思っています。僕自身がひとり一人と関わるには、やはり15人くらいが限界なので、数をどんどん増やすということは念頭にありません。同時に、会社の価値は、社員ひとり一人の価値を足した以上にはならないというのが僕の考えです。いつでも替えがきく人材で機能させる経営もありますが、僕はそういう世界を信じてはいません。我々が大事にしているものに共感して、一緒に価値をつくってくれる人、そして、発想にしても、能力にしても、まったく別のものを持っている人にきてもらい、一緒にやりたいです。

—まったく別のものを持っている人。

田中社長:そう。僕のできるようなことを、僕よりちょっと上手にできる人ではなく、まったく別の力を持っている人。そんな、我々がまだ出会っていない人を、探しています!

田中社長

終始、キラキラとした目で語ってくれた。

社内の様子

あたたかみのある内装で、明るい雰囲気の事務所。

イチオシ 田中三次郎商店のじまんの人 専務 佐々木善昭さん
佐々木善昭さん

田中社長が「やりたい放題の前社長(現会長)を文句ひとつ言わず支えながら、ほかの社員をまとめてきた温厚な人」と評する、笑顔も穏やかな佐々木さん。

23歳の頃からほぼ半世紀、この会社にいます。会長と、会長のお母さんと3人だったときもありました。だから、営業に仕入れ、発注から配達、集金まで、なんでもやってましたよ。30歳くらいの頃かなぁ、給料も安いし、きつくて、真剣に辞めたいと思ったこともありましたね。いつしか海外とも取引きするようになって、正直言うとこんな風に順調に成長するとは思っていませんでしたが(笑)、あのとき辞めなくて良かったです。手前味噌ですけれど、会長はすごい人で、人を引きつけるオーラみたいなものを持っています。社長も感心するくらい頭が切れるし、素晴らしいリーダーを持った会社だと思います。それに、なんといっても明るいのがいい。私にとっては、今も昔も変わらない、家族みたいな会社です。ほかにはないと思いますね。

編集後記

田中智一朗社長を一目見て、「爽やかですね!」と言ったら、「爽やかなだけが取り柄ですから」と返されました(笑)。学生時代は学業そっちのけでカヌー三昧、今もアウトドアが大好きだそうです。仕事も大好き。現在、事務所の自席の脇には話題の3Dプリンターが。何やら研究中と、キラキラとやる気に満ちた表情で教えてくれました。自宅を兼ねていた(現在も会長さんのお住まい)旧社屋にもご案内いただき、明け透けなまでに、次々なんでも見せてくださったのも印象的です。頭の回転が速くて、どんな質問にも的確に答えてもくれました。
会長さんがまたすごい。取材中の会議室をノックして、「終わったら、超魔術ね」とお茶目なお顔で一言。実は名物なんだそうです。これがまた玄人はだしでびっくり!小郡のMr.マリックですよ、みなさん!田中三次郎商店さんは、自分たちの会社に関わる人たちを、とにかく喜ばせたいんだそうです。会長さんの超魔術もそれ?
帰りの電車で、会長さんにいただいた、グネグネに曲げられたスプーンを見ながら、やなせたかしさんの、「人生の一番の喜びは、人を楽しませること」という言葉を思い出しました。(2014年3月取材)

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