キラリと光る町
09智頭町 2016 特別編 森林セラピー®を研修メニューとして提供。トップランナー智頭町の取り組み

キラリと光るまち【特集】飯南町・智頭町(本編)はこちら

全国の森林セラピーの取り組みをリードする鳥取県智頭町。同町での森林セラピーを、企業などが研修プログラムの一環で導入するケースが増えています。科学的に証明されている癒し効果をメンタルヘルスに、オフィスとはまったく異なる環境で行うチームビルディングに。新しいアプローチが、大手企業を中心に好評を博しているのだそうです。

「山陰癒しの森 森林セラピー」の取材から2年あまり、智頭町が、地域おこしの柱のひとつにすえて推進してきた森林セラピーが、次のステージに。
2015年より智頭町と事業連携協定を結び、企業への提案から現地コーディネートまでを担っているのが(株)ルリエ代表の松本章太さん。学生時代に暮らした鳥取県をこよなく愛する大阪人。現在までに本社を智頭町に移し、自身も拠点を持つ半移住者です。
事例を「一回見に来てください」と誘われて、みつばち1号、2号は秋の智頭町を訪ねました。

私たちが見学させてもらったのは、いずれも保育士の資格を持つ女性ふたりが立ち上げ、注目をあびる「こどもみらい探求社」主催のツアー。同社は、子ども、保育、家族、子育てといったキーワードに当てはまる、あたらしいサービスを生み出すことで、それらに関わる人材を育成したり、コミュニティをつくったりすることをミッションにしています。

今回このツアーには、関西、関東の主に都市部から17名の皆さんがご参加。子どもの教育に関係するお仕事をする方々で、やはり保育士さんが目立ちます。こどもみらい探求社の共同代表 小竹めぐみさんと小笠原舞さんによると、ツアーの目的は、「智頭町には子育て世代の移住者が多い。そうした人たちが、なぜここを選ぶのか、町の取り組みを学ぶと同時に、実際に足を運ぶことで環境を体感すること。日ごろ都会で忙しくしているみなさん自身のリトリート(retreat:直訳すると「退却」や「避難」。日常から離れて自分だけの時間を持つ意味に使われる)も兼ねています」とのこと。森林セラピーは、プログラムの一環で組み込まれているメニューのひとつです。

こどもみらい探求社の小竹めぐみさん(左)と小笠原舞さん。智頭町へのツアーは過去にも実施済みで、とても好評だったそう。

一泊二日のツアー。一日目は、それぞれを紹介し合うなどの軽いセッションのあと、自然の中でランチタイム、森林セラピーを体験して、夕方には一日を通して得た感想などを全員とシェアします。宿泊は民泊です。リラックスしながらも、受け取るものが多いプログラムになっていました。

ツアー一日目の後半、参加者のひとりで医療関係のお仕事をされているという福原桃子さんに感想をお聞きしてみると、「一日目にして心身がほぐれたような気分です。森林セラピーはもちろん、智頭町の町に足を踏み入れただけで癒されたように感じたのは、森の香りのせいでしょうか。緑の少ない大阪の中心部に住んでいるのですが、無自覚のうちに、自分が緊張した状態にあるのだと、癒されてみてわかりました」と話してくれました。

「足を踏み入れた途端に癒されました」と語る福原桃子さん。

寝転がり、目を閉じるとまた、違った感覚が呼び覚まされる。

このツアーもルリエがサポートしているもので、前出の松本さんが全行程に立ち会います。導入先の目的などによってカスタマイズしながら提供しているとのこと。
もともと転職サポートを事業のメインとしていたルリエですが、「人の数の少ないところ」での暮らしを夢見てきた松本さんにとって、都市部をベースにした仕事になってしまうのが難点でした。そこで別途模索したのが「メンタルヘルス」をテーマにした事業です。

現在は「本当にハッピー」と語る松本さん。大阪生まれの大阪育ちで、東京や名古屋での生活も経験したけれど、大学時代に過ごした鳥取が忘れられなかったそうです。「人が少なくゴミゴミしてない」のが一番の理由。日本最少県ですからね!
それに加え、「SNSを否定はしませんが、ネット上でのつながりばかりが増えることには違和感がありました。社名のRelier(ルリエ)は、フランス語で「つながり」を意味する単語です」と。なるほど。

縁あって智頭町にたどり着き、現在は週の半分ほどをここで過ごすようになった松本さんが最初に惹かれたのは意外にも?智頭町役場!曰く、「役場の人たちに一目惚れですね(笑)。初めて行ったとき、みんなが目を見て挨拶してくれた。親切にしてくれた。よそではそこまでの経験はなくて、正直、自分の地元のそれとは雲泥の差でした。森林セラピーを中心に、メンタルヘルスを切り口にした研修のための資源もそろっていて、自分がしたいことと町の方向性とのズレも感じませんでした」

目標について熱心に話す松本さん。町内の民泊先のひとつにて。

森林セラピーについては、「ドイツをはじめヨーロッパには森林診療という概念があり、公的保険が適用される例も珍しくありません。日本でもちゃんと認められるようになればいい。科学的な裏づけも大事ですし、実際に取れてもいますけれど、それだけではないと思うのです。リラックスしたうえで自分自身のことを考え、向き合う時間が持てること、これがなかなか普段の生活では実現できない、価値あるものだと考えています。何度体験しても、毎回なにかしらの新たな発見があります」と、その魅力、効果を話してくれました。

さらに松本さんが可能性を感じているのは、日本の森林問題への、ひとつの解決策としての森林セラピーです。国土の7割近くが森林で、うち4割程度を人工林が占める日本。かつて、次世代を豊かにするために人の手によって植えられたスギやヒノキは、安価な輸入材に押されるなどして経済的価値が著しく低くなりました。手入れをしても割に合わないため、日本中で放置され、また、里山として人の暮らしに結びつくことで成立していた循環も失われました。木が売れないなら、別の形で森林に経済的価値をつくればいい。その、ひとつの答えが森林セラピーなのです。

環境問題について大学でも学んだ松本さんの、最大の関心は実は動物なのだそうです。人間の活動により、すみかやエサになる植物などが減るなどした結果、人の領域を脅かす存在になり、ときに駆除対象にもなる動物たち。人はもちろん、動物たちのためにも、健やかな森と、共生を取り戻したい。話すうち、松本さんが、森林セラピーのその先に見据えるものがわかってきました。

木とつながり、一体化するイメージで。

森で、大声で叫んでもみる。

このように、森林セラピーは、いくつかの複合的な、相互に関連し合う「ソーシャルグッド」の種を秘めた取り組みであることがわかります。智頭町は、これまで使ってきた森林セラピーロードに加え、新規ロードの整備も進めています。全国に先駆けたモデルをつくり、一朝一夕では解決しない中山間地域の問題を、中山間地域だからこそできるやり方で、良い方向に進めることができたら素晴らしいです。
都市に住む人たちも、智頭町を楽しみ、森林セラピーを体験することで、リフレッシュしながらこの取り組みに参加することができます。意外とアクセスも良いので、ぜひお出かけください。

(2016 年11月取材)

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