キラリと光る会社
。鳥×工作で、こころに鳥を住まわせる。スズメ社鳥と出会ったら、あなたもきっと、鳥のとりこに。

株式会社 とり

「とりいれよう」暮らしに鳥を こころに鳥を ─そんなメッセージを送り続ける株式会社 とり。スズメ社鳥こと杉浦裕志さんによる活動です。子どものころから鳥が好きで、野鳥は自分にとって「憧れや尊敬の対象」だと語るスズメ社鳥。やはり子どものころから図画工作が好きだったことから、それら大好きなふたつを合わせたワークショップを開催するなどして、鳥の魅力を伝えています。芸術系の大学でデザインを専攻していらしたこともあり、オリジナルの商品は、どれも心躍るデザイン!
キラリと光る会社第22回は、株式会社 とりのスズメ社鳥にお話をお聞きしました。

株式会社 とり公式サイト

子ども時代の愛読書は鳥の図鑑

—スズメ社鳥はやっぱり、子どものころから鳥が好きだったんですか。

スズメ社鳥:好きでしたね。子どものころ何度も開いた『鳥の生態図鑑』(学習研究社)が残っているのですが、付箋がたくさん付いてるんです。気になったページに付けたんですね。好きな鳥はページから切り取って壁に貼ってましたし。

—それはかなり。生き物だと昆虫、あと、乗り物に夢中になる子もいますよね。スズメ社鳥は鳥だったんですね。

スズメ社鳥:恐竜にはまっていた時期もあったんですけどね。

—おお!鳥の祖先は恐竜だと聞いたことがあります。

スズメ社鳥:そうなんですよ。恐竜にも、けっこう羽毛が生えていたともいわれています。僕が恐竜に興味を持ったのも、始祖鳥がきっかけだと記憶しているので、どこかでつながっていたんでしょうかね。

—いずれにしても、恐竜を深堀りすることはせずに、鳥のほうに夢中になったんですね。それがいまにつながっている。

スズメ社鳥

これで食べていけるようになるとは、夢にも思ってなかった

スズメ社鳥:小学校低学年のときから、なにかと鳥をモチーフに選んでいたみたいです。職人だった、おじいちゃん、おばあちゃんたちの、大人が真剣になにかをつくる姿に影響を受けて、工作も大好きだったんですよ。このふたつが原点ですね。

—いまのようなご活動を生業にするイメージは、早くからあったのですか?

スズメ社鳥:いえいえ、これで食べていけるようになるとは夢にも思っていませんでした。

—目指していたわけではなかった。

スズメ社鳥: ライフワークだとは思っていたのですが、ライスワークにできるとは、本当に最近まで思っていませんでした。ただ、両親の実家がクリーニング店とふとん店、兄もラーメン店と、自営業に囲まれていたので、独立してなにかすることへの抵抗みたいなものはなかったです。祖父母の働く姿をじかに見てましたしね。

—先ほど登場したおじいちゃん。

スズメ社鳥:大学の卒業制作でつくった、その名の通り特大の、メガ・チュンは、おじいちゃんに教わったミシンで縫いました。昔ながらの足踏みのミシンでした。(大きすぎて)自分ひとりでは間に合わなくて、家族総出でつくったんですけど(笑)。

—素敵ですね。ご家族はそのころから応援してくれていたんですね。

スズメ社鳥:ずっと、一貫して応援してくれてましたね。

とり扱っているグッズ。すべてスズメ社鳥が手がけており、自作したものも多い。

ブラックな会社、つらい日々。スズメに救われた

—いいご家族ですね。ライフワークをライスワークにできる前はなにをされていたのですか。

スズメ社鳥:株式会社 とりをつくったのは大学院在学中です。学部の卒業制作でつくったメガ・チュンが注目されて、仕事をもらえるようになったんです。教育系の大手企業も受かりそうだったんですけど、就職せずに大学院に進んで、株式会社 とりを起業することにしました。鳥の魅力を伝えるために、当時はイベントや展示会に出たり。年間20万円くらいしか収入にならなかったんで、これで生計を立てるということはあきらめ、趣味で続けようという気持ちで、その後いったん就職したんです。地元愛知県の会社で4年半、商品開発とか営業とかしました。

—そうですか。就職して、勉強になりましたか。

スズメ社鳥:なりました。でも次第に、考え方が合わないことがつらくなっていって。転職を機に、愛知県から上京することになりました。

—次の、東京の会社はどうでしたか。

スズメ社鳥:それがブラックだったんです。最初の会社でも怒鳴るような人はいたんですが、次の会社では、それに加えてものを投げつけられたりして…。

—えええ……。

スズメ社鳥:数ヶ月で、出勤の電車を降りられないくらい追い込まれて。駅のホームで、「楽になるかな」と、暗い誘惑にふらっとなることもありました。痩せて、うつ病と診断されて。そのときの経験はまだどこか尾を引いていますね。

—そうだったんですか…。

スズメ社鳥:そんな中でも、スズメを見ると、自分自身に戻れるような、おだやかな心持ちになりました。スズメは野生動物として、人間の都合や思惑とは関係のないところで生きてるんですよね。でも、ただそこに、チュンチュンといてくれることに救われました。ありがたいなぁと。

ミクロチュンをつくるところ。

“尊鳥” ─鳥に対する思いは、尊敬や憧れに近い

—あぁ、なんとなく、わかる気がします…。それは大変な思いをされましたね。スズメが近くにいてくれる野鳥でよかった。

スズメ社鳥:そうなんです。だから、「尊鳥(そんちょう)」と言ってるんですが、僕の鳥に対する思いって、野生への尊敬や憧れに近いんです。飼いたいと思ったことはないですし、かわいい鳥グッズをつくりたいわけでもありません。いまは鳥に食べさせてもらってますけど、恩返しがしたくて。

—そっかぁ。それで独立を。

スズメ社鳥:そうですね。ご縁をいただき、(公財)野鳥の会さんとつながって、公園での、鳥が住み良い環境づくりを仕事とするレンジャー職にしばらくは就いていました。同時に、株式会社 とりとしての活動も続けていたら、香川県での展示会に大きな反響があって、チャンスが巡ってきました。2017年から専従でスズメ社鳥をやっています。

スズメ社鳥:ワークショップはコンスタントに開催しています。イベントで呼ばれたり、最近だとお店やギャラリーでも。あらかじめ紙粘土を1チュン1チュン握ってつくる白いフィギュアに、色づけするワークショップが多いですね。対象は子どもたち中心です。色をつけたら肩チュン(リンクはスズメと同サイズの「じつぶチュン」)にすると喜ばれます。

—肩チュン!

スズメ社鳥:子どもにとってより安全にできないかと考えてたどり着いたのが、いまの肩チュンbirdです。肩に缶バッチを付けて、そこに強力な磁石入りのフィギュアがくっつく仕組みです。鳥が固定されず、自由でいられるところも気に入っています。

敬愛する「スズメ先生」。実はこの日のスズメ社鳥自身も、スズメカラーでまとめている。「変身する魔法があれば、スズメと一緒に電線に並んでみたい」そうだ。

ものづくりの力で、野鳥をとりいれる人を増やす

—マグネット入りで!発明じゃないですか、これは子どもたちも喜ぶに決まってます。

スズメ社鳥:ありがとりございます(笑)。野鳥を見る習慣もですが、工作ができる場をつくりたかったんです。自分でつくると、おのずと鳥への興味も強くなるんですよね。必ずしも鳥を好きにならなくても、街を歩いていて、いま鳴いたのはなんとかだとか、この柄ならあの鳥だとか、意識して観察してくれるようになったらいいなと。

—確かに、自分の手を動かすと忘れないですよね。

スズメ社鳥:そうなんですよ。スズメは、喉の黒い線がハッキリしているほど、モテるといわれています。この黒い線は成長するほどハッキリしてゆくため、それがすなわち長く生き残っている証として、異性が優秀な遺伝子を持つ個体を判断する材料になるのではと考えられているからです。オスは求愛のポーズで、メスに対してこの部分をアピールするんですよ。そんな「モテチュン」の話をしたりしながら自分の手で色づけしてもらうと、子どもでも忘れないと思うんです。ものづくりの力ですね。

—モテチュン!おもしろい!それは子どもたちも興味を持つでしょうね。ダイレクトな反応も、楽しいんじゃないですか。

スズメ社鳥:「できた!」ってなったときの子どもたちの様子は見ていてうれしいです。一人ずつ、それぞれのこだわりがあるのもおもしろいですね。同じスズメを見ていても、気になるポイントが違うので。

—スズメのように身近な生き物を、というか、身近だからでしょうね、まじまじと観察する機会はあまりないですもんね。ワークショップも盛り上がりそうですが、きっとその場だけにとどまらない体験を、スズメ社鳥は提供しているんですね。

スズメ社鳥:そうやって、裾野を広げていけたらうれしいです。

—この先どのように活動を展開してゆきたいですか。

スズメ社鳥:自分が野鳥たちに救われている経験から、うつ病やいじめなど、悩みを抱える人の暮らしに「とり」いれてもらえるようなサービスを考え中です。一緒に工作したり、観察しながら体を動かしたり、文通も始めたいなと思っとります。

こちらは色づけする前の肩チュンbirdシリーズ(じつぶチュン、しゃりチュン)。

スズメットをかぶりビッグ・チュンに乗り込むスズメ社鳥。近所の人の目は、ちょっと心配(笑)。

イチオシ 株式会社 とりのじまんの人(鳥) スズメ先生
スズメ先生

スズメ社鳥が10年来お世話になっている剥製。ワークショップも毎回、「スズメ先生に教わろう!」と呼びかけて始めている。

大学生のころ、お兄さんの営むラーメン屋さんでバイトをし、貯めた○万円で注文して買い求めた滋賀の剥製屋さん製。スズメ社鳥の熱心さに心を動かされたのだろう、針金を入れて羽が動く仕様にしてくれた。先生が自由自在にすみずみ見せてくれるおかげで、実物大の「じつぶチュン」がつくりやすいと感謝するスズメ社鳥、「チュチュチュン!って、突入する感じがいいんです」と。

編集後記

取材を申し込んだあとのメールのやりとりから、「頂いとりましたメール」「それもなかなかおスズメです」「ありがとりございます」といった調子。さまざまなネーミングといい、グッズといい、なんというか、“センス抜群”です(笑)。スズメットをかぶって(私たちもかぶらせてもらいました!)飛び跳ねるビッグ・チュンを目の当たりにして、もう、楽しい楽しい!ひどく弱っていた時期があったというお話をお聞かせいただいたあとだったので、そんな時間の平和が愛おしかったです。ハトじゃなくても、鳥って平和の象徴だなと思えてきました。鳥の姿に、声に、こころを向ける静かな時間は、平和そのものですよね。開催されている工作のワークショップもそうですし、アイデアとユーモアあふれる鳥の製品も、スズメ社鳥ご自身も。(2019年10月取材)

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