キラリと光る会社
意志持つ黒子。良質な外国映画を届け続けて20年

有限会社ロングライド

映画の配給会社について知っていますか?日本に数ある配給会社のひとつ、ロングライドは、外国映画ファンならピンとくるであろう作品群を届けてきた会社です。作家性と社会性の高い作品を数多く扱っています。映画をこよなく愛する人が20年前に立ち上げて、社員のみなさんと共に観客目線を大事にしながら運営されるインディペンダント系配給会社。私たちが劇場で観るにいたるまで、作品は海外からどのようにやってくるのかについても教えてもらいます。
キラリと光る会社第19回は、ロングライド代表の波多野文郎さんにお話をお聞きしました。

ロングライド公式サイト

子ども時代のお気に入りは『マッドマックス』。将来映画に携わりたかった

—波多野さんは、ロングライドという配給会社をどのような経緯で立ち上げられたのですか?

波多野さん:前職ではドイツの映像コンテンツ会社に勤務していたんです。さまざまな映像の権利を大量に保有する会社で、例えばカラヤンの映像をテレビ局に売るなどする会社です。僕はもともと映画に携わりたくて入社したのですが、時代的に映画ではさほど利益を得られなくなってきていて、扱いも少なかったんですね。それで自分で。

—ずっと映画が大好きだった。

波多野さん:はい。子どものころ、父親がよく映画館に連れて行ってくれました。『スターウォーズ』や『マッドマックス』とか観てました。初日に行ったりして。『マッドマックス』、大好きでしたね。

—『マッドマックス』!いまのロングライドさんから見るとすごく意外ですね(笑)。お父様に連れられて…、いいですねぇ。

波多野さん:山口県山口市だったので、メジャーな作品しか来ないものですから(笑)。でも、時代時代で熱いものってありますよね、1969年生まれの僕が若いころは、映画がいまより熱かったんです。文学も、音楽も、映画から学びました。映画の近くに行きたくて、職業的には、つくるほうも少し考えた時期がありましたが、いまのようになりました。創業して20年になります。

—文学も、音楽も…わかります!いろんな時代、いろんな文化、いろんな感情も味わえる。

波多野さん

基本的に、お金がものを言う世界

—ところで、私たち一般の人間は、“配給会社”がなにをしているのがよくわかっていません。少し教えてください。

波多野さん:僕たちは外国映画を専門にしていますから、簡単に説明すると、海外でそれらを買い付けして、字幕を付けて、PRして、という仕事をしています。主な買い付けは、映画祭のときに開催される、オープンマーケット形式の見本市のような場で行います。主要となるのはベルリン、カンヌ、それにトロント。見本市はほかにもいくつかあります。完成された作品もあれば企画段階のものもあって、入札制です。

—やっぱり、値段で勝負、なのでしょうか。

波多野さん:基本的にはそうですね。お金を中心とした、条件での交渉です。

—人気の監督や俳優の話題作や、映画祭で絶賛された作品は高くなるわけですよね?

波多野さん:そうです。だから、欲しいものでも、買えたり、買えなかったりです。日本の配給会社にも、海外の大きな会社の支社もあれば独立系の小さな会社もあります。うちは後者で、資金だけではまるで戦えません。映画を一本つくるのには大きな費用がかかるので、製作側が銀行やファンドにかなりの額を借りることは珍しくないんです。売る側がシビアになるのも仕方がありません。支払いのシステムは一般に、契約を交わし、最初にある程度支払ってから、興行収入が一定以上になれば追加で支払います。出版で、前払い印税を支払ったあと、重版になれば追加印税を支払うのと同じイメージです。

—リアルに理解できてきました。たくさんの人が関わって、大きなお金が動くので、それはシビアにもなりますよね。そんな中でも、ロングライドさんが扱う映画は一定の特徴というか、個性がありますよね。

波多野さん:作家性と社会的メッセージを特徴とする監督さんの作品が多いです。そうした監督さんと縁ができると、こちらとしてはなるべく継続的におつきあいがしたい。お金がものを言う世界ではありますが、関係性をつくることには気を配っています。

ロングライドで扱ってきた数々の作品。波多野社長は「福利厚生はほとんどない会社ですが」と前置きした上で、どんな作品も月に3本は経費で観に行ける社員特典があることを教えてくれた。

数字も気になるけれど、個々の満足感はさらに気になる

—お金といえば、製作にあたって、お金を貸したり投資した側が、当たる作品にしようと内容に注文をつけることもありますか。

波多野さん:ありますね。それも個々の契約によるのですが、監督が最終権限を持たないケースがあるので。プロデューサーがエンディングを予め数パターン用意させて、試写での反応を見て差し替えるなんてことも。逆に絶対に口出しさせない監督もいて、有名なのはウディ・アレンです。出演する役者に対してですら、直前まで脚本を見せないそうです。各国の予告編も自らチェックして、例えば「イタリア人にはこのほうが響く」などというイタリアサイドの意見も、監督本人が気に入らなければ通用しない。都市伝説かと思っていたら、あるとき本当にやっているところを目の当たりにしました(笑)。そうしたことも細かく契約で定められています。

—すごい。そうか、配給会社はPRも担うのですもんね。予告編とかポスターとか。

波多野さん:そうです。うちは一般の人たちの受け止め方をできるだけ丁寧に拾うようにしています。モニター試写会員を募って、熱心な映画ファンだけでなく、幅広く、個々の声を聴くように努めています。プロだから自分たちのほうがわかっているのだと、観客を見下ろすのは間違い。1,800円に見合ったものを提供するのは当たり前だし、PRの仕方もお客さん目線で考えるべきだと思っています。

—個々の声というのは、文字通り、個人個人の感想なのですか?

波多野さん:そうですね。作品がヒットして、たくさんの人が劇場に足を運んでくれるともちろんうれしいですし、実際、数字は気になります。でも数字だけで判断したくはないんです。生の声からではないとわからないこともあります。誰かの大切な一本になったと知ることは、数字上の成果を得るよりもうれしいかもしれません。

—数字も大事だけど、それだけではない。ロングライドさんらしさのひとつでしょうか。

波多野さん:意識はしていますね。たちまちネット上に口コミが溢れる昨今は、ごまかしが利かなくなりましたけど、昔は出来の悪い作品でも、全米で封切り直後の週末にどっと人が入れば、とにかくある程度稼げてたんですよ。評判が共有されるまでに時間を要してましたからね。その点ではいまのほうが健全とも言えます。それでも、数字だけでは見えないものは確かにありますから、やっぱり個々の満足感のほうが気になりますね。それもあって、現場である映画館での反応を体感することも、試写などを通して生の声を聞くのと同じように大事にしています。

—体感。確かに、映画館で上映後の空気には、観客の反応が現れますよね。あれは体感かも。

波多野さん:そうなんですよ。現場にいないとわからないですよね。

なにをすべきか、なにができるのか、毎日考えながら

—一映画ファンとして、うなずけることが多いですが、事業としては思うようにできていますか。

波多野さん:課題だらけですよ!それでも徐々にやりたいことができてきています。一つひとつ、毎日考えながら乗り越えてゆくしかないですよね。

—毎日考えながら乗り越える。ですか。

波多野さん:卑下しているわけじゃなく、うちのような会社がなくなっても世の中困らないですから。少しでも必要とされるために、なにをすべきか、なにができるのか、考えてやってゆくしかありません。必勝パターンはないので、日々考えないと。同じことをやるにしても、プロセスやアプローチを変えるとか、よりクリエイティブでありたいとは思っています。

—社会派の巨匠、ケン・ローチ監督が、母国イギリスを舞台に撮った『わたしは、ダニエル・ブレイク』の日本公開に際しては、「ダニエル・ブレイク基金」を創設されていますね。このような取り組みも、そうやって考えてきた中から生まれたのですかね。

波多野さん:そうですね、長年考えてきたことが、作品との出会いをきっかけに実現した例です。収益の一部を、同作品のテーマとなっている格差や貧困の問題に取り組む非営利団体に助成する試みです。大企業並みの寄付や活動は無理でも、やれることはあるんじゃないかと思うんです。「大企業でなければできない」というのは、僕は納得がいきません。作品の持つメッセージに共感し、呼応する形で、自分たちなりのことがしたかった。日本でも、思っている以上に身近かつ深刻な問題ですからね。幸い、プロデューサーも二つ返事で了解してくれました。

—一本の映画がきっかけで、というのは素敵ですし、映画をつくった側もうれしいでしょうね。

波多野さん:『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、僕たちにとっても重要な作品です。作品をきっかけにできたチャリティへの取り組みも、別の機会に、ぜひまたやりたいと思っていることのひとつですね。

—会社として、ロングライドさん自身が目指すのは、どんな姿ですか。

波多野さん:組織としてという意味では、働く一人ひとりが、自分のやりたいことを実現できているのが理想ですね。うちがその通りにできているかは自信がありませんけど、会社のために人が働いているのではなく、人のために会社がある、というのが、僕は正しいあり方だと思っています。

2019年4月5日公開の『バイス』。アカデミー賞メイキャップ&ヘアスタイリング賞受賞!ロングライド社員一同が自信を持っておすすめする、実話をベースにした痛烈な社会派作品です。クリスチャン・ベール演じる“最凶”副大統領・チェイニー元副大統領ほか、ジョージ・ブッシュ元大統領などがよく似ていることでも話題に!

イチオシ ●
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波多野社長によると、「打たれ強い」という、いずれも入社後3年未満の若手3人。主な業務は映画宣伝のパブリシティ。3人とも映画が大好きで、ご本人たちにお聞きすれば、決して「言わされているわけではなく」!この会社でいまの仕事ができることに喜びを感じているそうです。(左から深澤さん、出澤さん、友永さん)

深澤さん:以前は別の業界で働いていました。人生の中で仕事をしている時間は長いので、どうやって使いたいか考えて転職を決めました。いまの仕事には、ほかに頑張りたいことがないくらい情熱を傾けています。仕事への誇りもあります!好きな監督はたくさんいますが、最近特に注目しているのは韓国映画で、会社の中でもファンの多い、イ・チャンドン監督作品は、すごく手がけてみたいです!

出澤さん:ロングライドでは、大好きなジム・ジャームッシュ監督作品を扱っていました。それが入社を希望したきっかけです。うちの扱う作品は、作家性と社会性にこだわっていて良質。心からいいと思って売ることができるので、仕事のやりがいはすごく感じています。たくさんの人に作品の魅力を伝えてゆきたいです。

友永さん:映画が好きで、映画館でアルバイトをしていたこともあります。人生とはなにかを問うような作品、社会的メッセージを持つ作品が好みです。研修があるわけではなく、先輩の背中を見て覚える少人数の会社ですが、社長が言うように、私たちが打たれ強いのだとしたら、好きなことをできているからだと思います。

編集後記

映画が大好きで、週に2本は映画館で観ます。あるとき、「あれ、なんかよく見るな」と気づいた、スクリーン上に映し出される“LONGRIDE”の文字。もしかして、この会社で扱う作品が好きなのかもしれないと、ふと思ったのです。検索してみてビンゴ。「あれもこれも観てる、あれもこれも好き!」と少々興奮気味で、配給会社というものに初めて興味を持ちました。この作品選びから見て、きっといい会社に違いないと思い込み、取材の申し込みをしたのです。おだやかな印象の波多野社長も、やる気にあふれる「じまんの人」3人組も、素敵でした。ご自分のお仕事を愛する人は素敵だと思います。仕事人間だという意味ではありません。仕事を愛し、楽しむ人は、人生も愛しているように見えます。「じまんの人」の笑顔が、それを物語っていませんか?(2019年3月取材)

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